例えば、大手企業の社内SEの募集では英語力を必須とする傾向が強まっていると、転職サービス会社の調査でも明らかになっています。業務の一部をオフショア開発(海外の会社に委託)にする動きがあるからです。転職を考えるとき、外資系に限らず英語ができたほうが有利なのは言うまでもありません。
「英語ができる」と気軽に書きましたが、「英語ができるとはどのレベルやゴールを意味するのか?」が本稿のテーマです。
答えから言ってしまいますと「英語が流暢にしゃべれること」ではありません。「英語を使ってビジネスなりレジャーなりの目的を達成すること」です。
英語という言語の寛大さを知ろう
ある会社で、上司に日報を5回書き直させられました。何度提出しても赤字が入る。書いている内容のみならず、「てにをは」への指導もありました。理由は「日報は役員クラスまで回覧されるから」でした。手書きの文字や文章は書き手の人柄を表し、礼儀問題にも発展するという日本文化がそこにはあると言えるでしょう。
さて海外ではどうでしょうか。海外居住の経験はないのですが、本社がアメリカにある会社に勤めていた頃の話が、その違いを端的に表していると思います。
その会社の当時の取引先は、“超”がつくグローバル企業でビッグカスタマーでした。そこに3カ月に1度、インターネットの会議で業務報告しなければなりません。社内のまとめ役は、シンガポール担当者(現地の人)。国内の状況については、日本の担当として私がレポートを任されました。社内外ともに日本語がまったく理解できない人たちばかりの会議です。
ここまでお話すると、ものすごく英語ができる人と勘違いされそうですが、そんなことはまったくありません。仕事に必要な基本的な英単語と基本的な文法のみで、発音はジャパニーズイングリッシュです。それでもその任務は果たせました。つまり英語のコミュニケーションとはそういうことです。英語表現の巧みさ、発音の美しさではなく、どんな内容を目的に合わせて伝えられるかが重要なのです。「役員に日報が回るから」とピリピリする日本の会社と、英語力に不足がある人間に役割を任せ、またクライアントとして発言に耳を傾ける西欧のビジネスマンとの違い。どちらが合理的かはお分かりいただけるでしょう。
インドの若いビジネスマンは、まったく臆することなく自分流の英語を話すそうです。どんどん喋ってアピールして、チャンスをつかむ。「英語力=収入」である社会だからです。喋れるようになれるまで待っていたら、チャンスをものにできません。その環境が英語のコミュニケーション力を育てているようです。
現地に住んでみると、また違うかもしれません。しかしビジネスとして異なる民族と連携しなければならない環境では、「Rの発音がへん」などと指摘するネイティブはいません。「電話じゃなくて、チャットがいい?」と、あくまでも目的重視です。アジア人のおかしな発音の英語も、YouをUと書いたりするクセも、すべてOKなのです。なにを伝え合ったか、その結果なにが生まれたかが重要なのです。