フィッシュマンズを語るにはまず、身の上話を
歴史を読んでも音は聴こえてこないので活動史はそこそこに、私とフィッシュマンズの出会いを語りたいと思うのですが、「そんなMY LIFEは自分のFacebookにでも書いてろプゲラッチョ」と言うことなかれ、なぜかフィッシュマンズ好きと彼等の話になった時に語られることが多いのが、「いつ、どういう状況でフィッシュマンズという存在を知ったか」という身の上話です。
そして人は「ああ、そういう状況で聴くフィッシュマンズっていいよね」と、何だか妙な浮遊感を感じながら仲良くなるのです。後述しますが、フィッシュマンズを聴くときは「シチュエーション」も大事な要素なのです。
フィッシュマンズの話をして仲良くなる人のイラスト(出典:いらすとや)
私のフィッシュマンズ歴は遅咲きで、好きになった時は既に活動休止状態でした。「フィッシュマンズ」という名前だけは知っていたものの、なかなか食指は伸びない日々を過ごしていたある日、突然に出会いは訪れます。
ちょうど二子玉川でバーベキューがてらDJをする機会がありまして、当日レコードやらCDやら、いろいろ持って準備して「あーこれモテちゃうなー視線泥棒だなー」と思っていたのですが、よく考えたらそのイベントは4つ打ち系で、野外で気持ちよさそうだからという安易な理由でオーセンティックスカやルーツ・レゲエ、果てはスキンヘッドレゲエまでスピンしまくった私はまったくウケず、最後に小坂忠の『しらけちまうぜ』をかけた後、4つ打ちに戻った瞬間楽しそうに踊る方々を尻目に1人寂しく缶ビールを煽り、焦げた肉を突付いていました。
「場違い」という言葉が耳なし芳一のように、耳以外全身を埋め尽くそうとしたその時です。夜の帳が降りる頃、会場に設置されたスピーカーから聴こえて来たのがフィッシュマンズの『Go Go Round This World!』でした。
Reference:YouTube
少しだけ肌寒い、秋の空気に乗って、良く通る口笛一発、ドラムが鳴り響き、漂うようなコーラスがはじまります。はじめて聴いたのに、言葉がそれこそ1文字1文字、音と対照的にくっきりと目の前に浮かび上がります。
もういいよ 歩き出そうよ
ゆっくり進む 秋の日差しを
この体で グッと感じようぜいいったいいくつの時を
過ごして来たの
60年、70年、80年前の感じ
引用『Go Go Round This World!』
「凄い! この曲は誰だろう」そう思っていると、遠くから女の子の声が聞こえました。
「あ、フィッシュマンズだー!」
その時の空気の匂いと、肌寒さ、だんだん暗くなってくる夜の景色、そしてジャストタイミングで入る顔も知らない女の子の声、ぬるいビールと焦げた肉。今でも鮮明に思い出すことができます。
こうして、フィッシュマンズの洗礼を受けた私は、翌日から次々と聴き漁り、その世界に没入していくこととなったのでした。