「あのさ。す・・・」
言いかけた瞬間、後ろから背中に衝撃が走る。よろけて、バッと目をやると急いでいるらしいサラリーマンが「邪魔だな」と吐き捨て走って行った。せっかく、言おうと思ったのに。
「だいじょうぶ?」
「あ、うん」
「なにか・・・言いかけた?」
「あ・・・。えっと」
「なあに?」
「・・・なんでもない」
「そっか・・・」
「うん・・・」
「あ、電車来ちゃう、またね」
「うん、またね」
ヒラヒラと手を振って、右と左へ分かれる。エスカレーターを登っていると、目頭がじゅっと熱くなった。恥ずかしさからなのか、情けなさからなのか、わからない。きっと緊張の糸がほぐれたのだろう。いや、ほぐしている場合か? 告白するって、決めていたんじゃないのか?
ホームにあがるとちょうど電車が来ていて、ユウジは格好悪い自分から逃げるようにして中目黒を後にする。頭の中がグワングワンと揺れる。気づかなかったけれど、結構酔っていたようだ。チヅルに、言えなかった。