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ユウジの告白【連載】さえりの”きっと彼らはこんな事情”

さえり さえり


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「告白、しようと思うんだけど」

同級生の遊び人、たっちゃんにそう相談をすると、たっちゃんは「告白!」と言って大声で笑い出した。曰く、「この歳になって“告白”する奴なんていない」のだと言う。お酒を飲んでなんとなくいい雰囲気になり、なんとなく終電を逃し、なんとなく関係を持ち、なんとなく付き合うのが普通! と、たっちゃんは言う。不意に嫌悪が湧き上がる。チヅルを、そんな風に扱うわけにいくか。

苛立ちが押し寄せ、罪のないたっちゃんに腹を立て「俺は告白するからな、次のご飯で絶対に」と言い放ったが「成功したら教えてな」とたっちゃんは笑い、漫画のようにヒラヒラと手をふりながらどこかへ消えていってしまった。その時以来、告白のシチュエーションは何度も何度も頭に思い描いてきた。頭の中の自分は、至極スムーズに(かつロマンチックに)チヅルに思いを告げている。いける。いけるはずだ。俺の恋は、春には満開のはず・・・だっ!

と、思っていたのに。

実際は、告白できずに迎えている。23時43分を。

思えば今日のデートで告白するタイミングは山のようにあった。食事をしている間、彼女はじっとこちらを見てくれたし、何かを口にするにはちょうどいいたっぷりとした沈黙もあった。駅から10分程度離れている店から駅までの道のりは、ひと気がなく、なんでも切り出せそうだった。なのに。なのに・・・。

「じゃあ、わたしこっちだから・・・」

チヅルがにっこりと笑って、渋谷方面を指差す。「たのしかったね」とか「また行こうね」とか「次は、前話していたパスタにする?」とか。別れの台詞が次々と繰り出されるが、ユウジの耳にはほとんど届いていなかった。それもそのはず、心臓がばくんばくんと跳ね、耳まで脈打って、その音がうるさくてほとんど声が聞こえないのだ。

今だ! と思うのに声がでない。

もし今J-POPの歌手だったら「すきですの四文字が言えない」などと歌にしただろうな、と頭の片隅でぼんやり思った。

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