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清水富美加から西行法師まで。人が出家をしたくなる3つの理由

岡田麻沙 岡田麻沙


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「ものさし」をかえるため

自分のために生きることは難しい。よく、他人が嫌がるような大変な仕事を進んで引き受け、頑張ってる感を演出した揚げ句、「いやあ、実は自分が周囲から良く思われたくて、こういうことやってるんですよ! 俺は自分勝手な人間っすよ!」などとおためごかしを仄めかす輩がいるが、そんなもんは全く自分勝手などではない。単なるめっちゃ良い人である。悪い男を気取りたいのならばいっそのこと、「他人の目が気になってしょうがない奴隷体質なんです」という告白をしたほうがいい。そのほうがよっぽどエロい。

哲学者の中島義道は『人生を<半分>降りる(2008年、筑摩書房)』の中で「あなたは間もなく死んでしまう」ということを繰り返し記している。いずれ死んでしまうんだよ、分かってるの? ほんとに分かってるの? じゃあなんでそんなことしてるの? というわけだ。

中島義道は本書の中で、「自分がいずれ死んでしまう」という事実にあんまりピンと来ていない人の方が世の中ではマジョリティーである、と告げている。

自分がいずれ死んでしまうことを、何にもまして重大だと考える人たちは、「自分が死んでしまえば、自分の葬式や、その後続く世界のことなんか知らんわ。関係ないね」と思っている。隠遁生活を送ったり、出世をする人としてはこちらが正しい人生観である。

でも実際は、「自分の死んだ後も、同じ大きさ・同じ重さで世界は続いていくよ」という立場の人々が、社会を動かしている。たとえば100年後に実を結ぶような大規模プロジェクトに力を注ぐことは、「後のことは知らんわ」と考える人にはアホらしくてやってられないことだろう。

「ピンと来ない派」がマジョリティーを占めるという中島義道の指摘は、言われてみればその通りで、皆が皆「自分の死後は知らん」と思うようになれば、世界平和も環境問題もなにも、あったものではない。

中島義道は本書のエピローグ中で、ストア派哲学者のルキウス・アンナエウス・セネカによる提言を紹介している。

もうすぐ死んでしまうあなたは、――すべての仕事からではなく――社会的に有益な仕事から手をひくべきである、これがセネカの言わんとすることです。
引用:中島義道著(2008年)『人生を<半分>降りる』筑摩書房、p.31

いちばんおいしい仕事を捨てろと言っているのである。あえて、社会から評価される部分を切り捨てる。超ロックである。生きる場所を変えたり、大きな仕事を手放したりすることは、自分の人生をはかるものさしを変えるほどの意味を持つ。

自分にとって大事なことが、多くの人にとってそう大事ではないことは珍しくない。それでも、皆が使っている「ものさし」に馴染めないとき。環境を変えることで、別の「ものさし」を手に入れようとするのは、妥当な試みだろう。その一つの方法として、出家や隠遁は有効である。

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