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マッサージ師に教わった、人間関係をハックする快楽の作法

岡田麻沙 岡田麻沙


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リラクゼーションサロンや整体施設でマッサージを受け、その体験を元に記事を書かせてもらっていたことがある。取材する施設やマッサージのメニューは毎日変わるため、平均して月に20人程の見知らぬ人間から、体を触られていたことになる。

わたしはこの仕事を受けた当初、「ククク」と思っていた。ちょっと肩揉んでもろて感想文書かせてもろてお金もらえるとか、なんやこれ最高やんか、ククク、と。

だが1週間で思い知った。毎日違う人から体を触られるのは、ものすごく疲れる。リラクゼーションなのに、治癒施設なのに、なぜだか疲れるのである。原因はどうやら、施術者の技術ではなく、受け手であるわたしの体ですらなく、脳によるものらしかった。

自分で自分をくすぐることはできない

他人から体を触られたとき、くすぐったかったり、不快に感じたりした経験は殆どの人間が持っているはずだ。考えてみれば不思議である。わたしたちが四六時中触れているはずの洋服や寝具、風呂のお湯などから、くすぐったさを感じることはあまりない。風がくすぐったい、ということは時々ある。犬や猫などの動物を抱きあげたときに、柔らかな体毛が首筋に触れ、こそばゆく感じることもある。だがやはり人間同士が触れ合うときの、体と体が受ける刺激のバリエーションは図抜けている。

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そもそもわたしたちはなぜ、くすぐったさを感じるのか。『触楽入門(仲谷正史著、筧康明著、三原聡一郎著、南澤 孝太著、是澤ゆうこイラスト(2016年)朝日出版社)』によれば、皮膚の感覚について最初に考えた人間はアリストテレスだという。今から二千年ほど前、彼は、「なぜ自分で自分をくすぐることができないのだろうか?」という問いを立てた。

アリストテレスが出した答えは、「自分の行動は予測を立てられるから」というもの。現在、彼の答えが正しかったことは、脳活動を計測する実験によって証明されている。脳は自分の体の動きを予測し、刺激に対する準備をする。だがこの予測は完璧ではない。脳による予測の不確定さを示すエピソードとしては、幻肢痛げんしつうというものがある。
 

腕や脚を切除した人が、存在しないはずの指先を動かそうとしたとき、「指先に」痛みを感じることがある。これを幻肢痛という。ないはずの場所が痛むのである。神経科医であるラマチャンドランは自著『脳のなかの幽霊(V・S・ラマチャンドラン著、サンドラ・ブレイクスリー 著、山下篤子訳(2011)角川書店)』を通して、ないはずの腕が「視える」という感覚を持つ患者の例を紹介した。ラマチャンドランは、患者の幻肢に視覚的なフィードバックを与える「バーチャルリアリティーボックス」という装置を用いることで、一部の幻肢痛を解消した。VR装置で「患者の脳が予測した通りに動く腕」を見せることによって、予測と現実のズレを調整したのだ。
 

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なるほど。私たちの脳は自分の体を動かすときに予測を立てるが、現実があまりにズレているとエラーを起こすようだ。わたしは抜歯手術を受けた際に麻酔をかけてもらったことがある。術後、かすかに麻酔の残っている状態で昼食のサンドイッチを食べたところ、サンドイッチだと思って咀嚼していたのが自分の唇だったというスプラッタ体験をした。それまで「美味しいな」とモグモグやっていたものが自分の唇だと分かり、流れる血液を目にした瞬間、鋭い痛みを感じて叫び声を上げた。痛みは視覚からも作られるのである。
 

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