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「デトロイト」恐怖の悪眉毛による地獄の40分間一本勝負

加藤広大 加藤広大


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バリー・アクロイドによるカメラワークと、ウィリアム・ゴールデンバーグによる編集技術は圧倒的で、映像は観ているこちらが酔ってしまうほどに揺れる。後ろで鳴らされる最小限の劇伴もよく効いていて、更なる不安を煽る。

何なら隣のシアターが4DX上映だったので、こちらの席も微妙に揺れ、より不穏さを増していた。武士の情けで伏せ字にして書くが、何とかしてくれT○H○シネマズ六本木。終映後に暴動が起きなくて本当に良かった。

監督、撮影、編集、音楽含め、ビグロー組は「あ、これ以上揺れた嫌だな」とか「これ以上音のバランスが悪かったら嫌だな」というギリギリのラインを保ちつつ、観客に適度なストレスを与えるのが本当に上手い。

さて、暴動勃発後の街は、一夜明けても未だ一触即発といった状態で、治安維持のために軍隊も出動している。ゆったりと威圧的に街を見回る兵士たちは、アパートの窓に人影が見えるやいなや、確認もせずに車載されたブローニングM2をぶっ放す。気分はもう完全に戦争、とにかく「細けえことはいいんだよ」と、初手から圧倒的な火力で制圧していく様は後のイラクを彷彿とさせるに充分である。

この「治安維持行為」は本作を貫くテーマでもあり、武力・暴力による治安の維持がどれほど危ういかを我々に見せつける。

本作は、音楽映画の側面も持ち得る

暴動発生から3日目の夜、物語はメインイベントの尋問シーンに向けて動き出す。黒人ボーカルグループである「ザ・ドラマティックス」のメンバーたちは、フォックス劇場で今まさにチャンスを掴もうとしていた。

舞台袖で顔に緊張と野心を漲らせているメンバーの横で、マーサ&ザ・ヴァンデラスが『Nowhere to Run』を歌い、スポットライトを浴びている。史実では『Jimmy Mack』なのだが、ここに変更を加えてくる良選曲。

そして、いざ出演となったその時、警察からのお達しによりライブの中止が告げられる。リードシンガーのラリー(アルジー・スミス)は誰も観客が居なくなった劇場のステージに一人立ち、歌う。住民たちが白人警官の横暴に耐えかねて起こした暴動は、黒人少年の夢を奪う。

https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/M/MV5BMzE3OTA1Mjk2M15BMl5BanBnXkFtZTgwMTQ4MjAwMjI@._V1_SY1000_CR0,0,1497,1000_AL_.jpg出典:IMDb

とても悲しいシーンだが、マーサ&ザ・ヴァンデラスやラリーが歌うシーンはさながら良質の音楽映画としても切り取っても遜色ないクオリティで、選曲も無駄なものは一切無く、音楽映画としての力も持ち得る。特にラストの『It Ain’t Fair (feat. Bilal)』は、1967年と2018年を一発で繋ぐ。

全編を通して嫌な、いたたまれない、精神を逆なでするような描写が続く本作であるが、唯一救いがあるとすれば音楽で、その音楽すらも、何度も打ちのめされるが、その度に蘇る。

「2017年ラスベガス・ストリップ銃乱射事件」を思い出すまでもなく、有史以来、音楽に勝利したテロリストや独裁者、差別主義者は、結果的に誰一人として居ない。60年代という時代もさることながら、音楽が大事に扱われている作品である。

かくして、デトロイトの街角から、モーテル内の限定的な空間へ、絶望と憎悪が凝縮していき、本作のメインイベントである「アルジェ・モーテル事件」が幕を開ける。

街角のクリエイティブ ロゴ


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