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雨の日に読みたい。おすすめの恋愛小説10選

岡田麻沙 岡田麻沙


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5.『紙の月』角田光代(2014)ハルキ文庫

直木賞作家・角田光代による、第25回柴田錬三郎賞受賞作。学芸通信社の配信で2007年9月から2008年4月まで『静岡新聞』に連載されていた。2014年にテレビドラマ化、同年11月に映画化された。

サスペンス小説であると同時に恋愛小説である。お金をつかうことの全能感と、恋愛中に訪れる多幸感はどこかで似ている。そんな、身に覚えのある高揚の感覚を喚起させる描写でストーリーが進んでゆくから、「たが」が外れた人間が引き起こす一連の事態を、他人事とは思えずに追いかけてしまう。少しずつお金を盗んでいく主人公の女性。「足りない」と感じてしまえば、どこまでも「足りなさ」は癒えない。求め続ける恋愛の虜になっている方は、本書を読んで真顔になってみるのも一興だ。

 

6.『溺レる』川上弘美(2009)文藝春秋社

芥川賞作家・川上弘美による第11回伊藤整文学賞、第39回女流文学賞を受賞した傑作短篇集。川上弘美の飄々ひょうひょうとした人物造形が光りまくっている一冊だ。表題作である『溺レる』は男女の駆け落ちを描いた作品だが、主人公の女性も、駆け落ち相手である男性も、どこまでもトボケている。

「まあ、昔からミチユキだのチクデンだの、そういう言い方あるでしょ。ぼくらもそれですよ、それ」モウリさんはそう言って、わたしの頬を撫でたりする。
「チクデン」またぽかんとすると、モウリさんはさらに撫でる。
「相愛の男女がね、手に手をとって逃げるっていうことですよ」
「はあ」
引用:『溺レる』川上弘美(2009)文藝春秋社、p.30

なんだろう、この他人事のような話しぶりは。とても駆け落ち中の男女の会話とは思われない。しっかりしてくれと言いたい。この後も2人は、小学生のようになって泣いたり、カスタネットの話をしたり、深刻さのまるでないふるまいを繰り返す。そして、ほとんどうわごとのような口調で交わされる蜃気楼のような会話を追っているうちに、ふと、えも言われぬ怖さがおそって来るのだ。行間に恐ろしいものが見えた気がして、ひゅっと息を止める。気付いたときにはもう、すっかり怖い。そんな不思議な短篇である。なるほど、恋とは恐ろしいものなのだ、などとうそぶいて、震えながら頁をめくろう。

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