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『すばらしい新世界』『1984年』、そして『消滅世界』

岡田麻沙 岡田麻沙


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もう一つの代表的なディストピア小説についても触れておきたい。『1984年』は、イギリスの作家ジョージ・オーウェルによって1949年に刊行された小説である。あらすじは以下の通り。

<ビッグ・ブラザー>率いる党が支配する全体主義的未来。ウィンストン・スミスは真理省記録局に勤務する党員で、歴史の改竄が仕事だった。彼は、完璧な屈従を強いる体制に以前より不満を抱いていた。ある時、奔放な美女ジュリアと恋に落ちたことを契機に、彼は伝説的な裏切り者が組織したと噂される反政府地下活動に惹かれるようになるが・・・・・・ 引用:『一九八四年・新訳版』(ジョージ・オーウェル著、高橋和久訳(2009年)早川書房)裏表紙より

イヤミたっぷりの『すばらしい新世界』とは違い、『1984年』ではド直球の暗い世界が描かれている。敗戦、貧困、思想統制、監視社会などの緻密な描写が連なり、序盤で音を上げたくなるような重たさだ。だがジョージ・オーウェルの書く暗い世界は、妙にリアルな体感があって(おもに主人公が感じる肉体的苦痛の描写において)、気づけば引き込まれている。結果、えづきながら読むことになる。この本は最後までゲボゲボ言いながら読む本だ。

『1984年』の作中に、こんなシーンがある。拷問にかけられている主人公のウィンストンは、4本の指を心の底から「5本だ」と言えるようになるまで痛めつけられる(ひどい!)。ウィンストンは泣きながら「どうしようもないじゃないですか。2+2は4です」と言うが、拷問する人物はそれを認めず、次のように答えるのである。

「ときには、ウィンストン、ときにはだが、それが5になることもあるのだよ。<中略>君はもっと真剣に頑張らないといけない。正気になるのは難しいのだ」 引用:『一九八四年・新訳版』(ジョージ・オーウェル著、高橋和久訳(2009年)早川書房)p.388

ここで出てくる「正気」の正体は、村田沙耶香が『消滅世界』で描く「正常」と同じものだ。現在生きている私たちにとっては周知の事実かもしれないが、「正しさ」というものは、世界の形に応じて姿を変えるのである。

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