『消滅世界』ってどんな話?
『消滅世界』は、第二次世界大戦をきっかけに人工授精が飛躍的な進歩を遂げたパラレルワールドを舞台として展開される物語だ。夫婦間でセックスをすることは「近親相姦」として忌み嫌われ、家族制度は古風なものとして解体される途上にある。具体的な時代は明らかにされていないが、「夫婦間での交尾(=近親相姦)」は「100年前にはまかり通っていた価値観」である。
そんな世界で、主人公の雨音(あまね)は「父と母が交尾をして生まれた」、いわばイリーガルな出生歴を持つ人物である。雨音自身はそれを「気持ち悪い」「呪いみたい」だと感じている。だからこそ彼女は世界からセックスが消えていくことを心のどこかで「ざまあみろ」と思うし、世界が急速に変わっていくことに対して気持よさを感じている。
急速に変化する世界の中で消滅していくのは、夫婦間でのセックスであり、家族制度であり、恋愛感情であり、親と子の一対一の関係であり、セックスそのものである。三部構成の本作中で、雨音は消滅していくものごとを守ろうとしたり手放そうとしたりしながら、結局すべてを受け入れる。そして言うのだ。
「どの世界に行っても、完璧に正常な自分のことを考えると、おかしくなりそうなの。世界で一番恐ろしい発狂は、正常だわ」 引用:『消滅世界』(村田沙耶香著(2015年)河出書房新書)p.243