よい映画には素晴らしいサウンドトラックがつきものです。逆に映画は素晴らしいけれども、サウンドトラックが台無しのために、評価が低くなってしまう作品もありますし、そのまた逆も然りです。
たとえば「地獄の黙示録」で流れる『ワルキューレの騎行』が『笑点のテーマ』だったならば、どれだけの人が映画館でずっこけ、憤慨し、スクリーンにポップコーンや瓶を投げつけ、暴動を起こしたか分かりません。
また、「タイタニック」で流れる『マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン』がアインシュテュルツェンデ・ノイバウテンのいずれかの作品であった場合、これも観客は悪心を起こし、ついにはトリップしてしまう方も続出し、結果的に「すげえもん観たな・・・」とある意味高評価・・・されるわけありませんね。暴動を起こすか卒倒するか、新しい知覚の扉を開いてしまうか、あるいはそのすべてが同時に引き起こされることでしょう。
というわけで、サウンドトラックはとても重要です。映画にはその情景や心情にあった選曲や、曲作りが欠かせませんし、言ってしまえば映画の中に無駄に流れている曲は1曲、1秒たりともないのです。
今回は「音楽が素晴らしいサウンドトラックの名盤」をご紹介するのですが、サントラと一口に言ってもいろいろです。オリジナルで映画の楽曲を作成している作品もあれば既存の楽曲からセレクトして劇中で流す、またはカヴァーで演奏するなどしている映画も数多く存在しています。
なので今回は後者、「既存の楽曲からセレクト(しているものがすべて、またはほとんど)」している映画から「このセレクトは素晴らしい」と常々思っている名盤をご紹介していきます。もちろん、映画の内容もそれはそれは最高のものをセレクトしてみます。
ちなみに、今までに他記事でご紹介してしまった映画も選曲が素晴らしい作品が多いのですが、あまり被ってもアレですので、その辺りは最後にまとめてオマケ的に記載しておきますので、そちらも合わせてご覧いただけますと幸いです。
だがニコラス・ケイジは除く
いきなりで恐縮なのですが、本編に入る前に少しだけニコラス・ケイジの話をさせてください。ニコラス・ケイジ、説明不要の名優さんです。ニコラス・ケイジと聞いてピンとこなくとも、顔を見れば誰でも「ああ、この人ね」となるはずです。どうしても思い出せない方のために画像検索してみましたのでスクリーンショットを添付します。
出典:Google画像検索
どこを見てもニコラスニコラス・・・な検索結果ですが、私、映画の中でニコラス・ケイジ(主演)が出てくると、その瞬間に役柄というよりは「あ、ニコラス・ケイジだ」と脳が強制的に認識してしまい、以後の内容は問わず「ニコラス・ケイジが結構な割合で映り、動いている映画だった」という感想を否応なしに抱いてしまうのです。
で、なぜここでニコラス・ケイジの話をしたかと言うと、ニコラス・ケイジの出演作、選曲がいい映画が多いんですよ。たとえば彼が武器商人を演じる「ロード・オブ・ウォー」の冒頭に流れる曲はバッファロー・スプリングフィールドの『For What It’s Worth』ですし、潔癖性の詐欺師を演じる「マッチスティックメン」では、オープニングに、ボビー・ダーリンの『Good Life』が流れるんです。「ああ、またニコラス・ケイジが・・・動いている・・・」と思っていたところに目が覚めるような名曲のパンチ。この効果がまた抜群なんです。
つまり、ニコラス・ケイジ主演作は妙にサントラがよいものが多く、しかし映画の内容自体は脳が強制的にニコラス・ケイジをニコラス・ケイジとして認識してしまうため、話は素晴らしかったとしても、「どうもニコラス・ケイジ」だったなという感想を抱いてしまうため、私はまともな評価が下せません。なので今回、ニコラス・ケイジ作品は残念ながら除外させていただいております。
1. High Fidelity/ハイ・フィデリティ
今回これが紹介したくて書いたようなものでして、本当に大好きな映画です。ニック・ホーンビィの小説を原作にスティーブン・フリアーズが監督した本作は、日本では2001年に公開されました。
Reference:YouTube
主役はジャック・ブラック演じるバリー。間違えました。ジョン・キューザック演じる、うだつのあがらないレコード店の店主、ロブ・ゴードンです。
シカゴのレコード屋「チャンピオンシップ・ヴァイナル」を舞台に冒頭、うだつがあがらない割にはやたら可愛い彼女がいるロブは、あっさりとフラれてしまいます。「なぜ俺はフラれるのか」そう思った彼は今までの失恋トップ5を思い出し、その女性たちに会いに行き「なぜ俺をフッたのか」を聞く旅(といっても近所です)に出掛ける。というのがお話の筋なのですが、レコード店で繰り広げられる音楽マニア垂涎のトークがほんとうに、ほんとうに最高です。
ストーリーの説明をしていると長くなりますし、なんならこの作品だけでも長大なる文章を延々と書き続けられるのですが、後がつかえているのでいろいろと割愛します。
肝心の音楽なんですが、「過去の恋愛を追う」という物語の特性上、過去のシーンが出てきたりするので、年代にわけてその当時の音楽が無理なく流れているんですね。また、レコード屋のディティールも悔しいほどに完璧です。
The 13th Floor Elevatorsの『You’re Gonna Miss Me』から、Smogの『 Cold Blooded Old Times』、Elvis Costello & The Attractionsの『Shipbuilding』、Royal Truxの『Inside Game』。有名どころならQueenやStevie Wonderなどなど、随所で選曲センスが光りますが、ベタな使い方をしているところもあれば、一聴しただけでは分からない意味深な使い方まで、緩急自在に遊び心たっぷりで楽しませてくれます。
ちなみにこのサウンドトラック、1曲だけカヴァー曲が入っていまして、それは物語のクライマックスに関わる重大なネタバレになってしまうので言えませんが、これまた原曲に負けず劣らずの1曲ですので、ぜひ、まず映画を観てから、サウンドトラックのリストに目を通してみてください。あと、DVDには未公開シーンがオマケで付いているのですが、こちらも必見です。
また、同じくジャック・ブラックが出演している映画に「スクール・オブ・ロック」がありますが、こちらも秀逸過ぎて禿げ上がってしまうほど素晴らしいサウンドトラックなのでご紹介したいのですが、あまりに本作と被るので、泣く泣く割愛させていただきます。
2. The Last Time I Committed Suicide/死にたいほどの夜
お次に紹介するは1997年に公開されたアメリカ映画、ビート文学の大傑作、ジャック・ケルアックの『路上』に登場するディーン・モリアーティのモデルであるニール・キャサディの半生を描いた映画です。
Reference:YouTube
監督はスティーヴン・ケイ、ニール役はトーマス・ジェーン。先ほど調べたらトーマス・ジェーンは高校卒業後にハリウッドでホームレスをやっていたそうで、ある意味今考えればニール役にピッタリだったのではないでしょうか。
もともとビート文学を下敷きにしていることもあって、当時のアメリカの若者文化、経済状況やできごとなどを知ってから観るとより味わい深く楽しめます。たとえば『路上』を読んでから観ると「こんな感じだったんだろうなあ」と、思わず笑ってしまいます。
さて、ビート・ジェネレーションに関わる音楽といえば、チャーリー・パーカー、ディジー・ガレスピーに代表されるビバップです。ジャック・ケルアックも『メキシコ・シティブルース』の中で言っていました。「腕の注射は銭のため、陽気に鳴らしたサックスはパーフェクト」
本作のサウンドトラックも聴いているだけでビートに打ちのめされそうな極上のオムニバスアルバムとなっております。チャールズ・ミンガスの『ベター・ゲット・イット・イン・ユア・ソウル』と共に動くニールを観ていると、それこそ死にたくなるほどカッコいいんですよ。
もちろん、チャーリー・パーカーからディジー・ガレスピー、アート・ブレイキー、エラ・フィッツジェラルドにセロニアス・モンク、マックス・ローチにマイルス・デイヴィス。定食屋で言うならばすべてがカツ丼、もしくは天丼ほどの強度で迫り来る豪華メンバーなのは言うまでもありません。