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【バイトするなら】ちょっと変わったアルバイトレポート「学生服の採寸」編

加藤広大 加藤広大


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某女子校(中高一貫)にて、はじめての制服採寸なるか

人生ではじめての制服採寸の当日、おれはスーツでビシっとキメて、都内にある女子校の門の前に立っていた。全男性の夢、禁断の女の園に今踏み込もうとしている。高まるテンション……であればよかったのだが、前日飲み過ぎて完全に二日酔いだったため、ヘロヘロしながら門をくぐり、学校の入口を目指す。傍から見れば完全に不審者である。

ふと、なんだか懐かしい「学校」の空気がした。女子高生の香りとかそういう訳ではない。校舎の感じや植えられている木、どこからか聴こえてくるピアノの音や、運動場からの楽しげな声、「ああ、おれもこういう青春……あったなあ……」と、もはや合法的に云々などの煩悩は弾け飛び、すっかり感慨に耽り、何ならもう戻ってこないあの頃を思い出してちょっと泣いた。

ちょうど教員らしき方が居たので採寸の設営場所を尋ねると、丁寧に案内してくれた。ついた先は学生食堂だった。

ここで、おれは生まれて初めて学食というものを目にすることとなる。その、まるでフードコートのようなバラエティー豊かな品揃えと、お洒落な横文字が並ぶアーバンな品書きに、心底カルチャーショックを受け、田舎と都会、公立と私立の格差を思い知った。

おれは公立の男子校出身だったので、学食はなく、近所の食肉センターのオバちゃんが物凄い質の悪い油で揚げた唐揚げやササミ、コロッケ、メンチ、つまりだいたい茶色のオカズを搬入し、これを売り捌き、2時限目には持参した弁当を食い終わっていた腹を空かせた青少年たちが、まるで地獄の亡者のようにカロリーを求め、食品を奪い合う飢餓戦争のような昼飯タイムしか経験したことがなかった。格差社会格差社会と言われるが、こんなに格差を感じたことは生まれて初めてであった。また少し泣いた。

それはさておき、意識を取り戻したおれは、担当者に挨拶せねば。と、簡易的に作られた試着室の近くに居たスーツの男性に会釈をした。

「はじめまして。◯◯から来ました。アルバイトの加藤です」
「あー、どうもどうも、よろしくお願いします!」
「えーと、初めてなんですが、何からはじめればよいでしょうか?」

すると、その男性はジェスチャーを交えながら指示をした。

「あ、じゃあ、そこの長机を、この辺りに並べてください」
「かしこまりました」

と、長机を指定された場所に並べる。しかし、机はほんの少ししかなかったのであっという間に終わってしまった。

「次は何をしましょう? これから、採寸ですよね?」

せっかく来たのだから、思いっきり働いて帰って酒でも呑もうと、やる気のあるところを見せつけるおれ。しかし返って来た返答は予想とは真逆のものだった。

「あ、今日はこれで終わりです」
「へ? 終わりですか?」
「終わりです」
「帰っていいんですか?」
「はい、大丈夫です。お疲れ様でした」

こうして、初めての採寸体験は空振りに終わった。いったい、おれは何をしに女子校まで来たというのか? やったことと言えば、長机をほんの少しずらしただけである。しかし終わりだというのだから仕方がない。挨拶をして校内を抜け、校門の外に出る。相変わらず遠くからピアノの音や、運動場からの楽しげな声が聴こえていた。

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