面接に行ったのに両国でなぜか天ぷら定食をご馳走してもらう
その日、おれは隅田川を眺めながら呆然としていた。道に迷ったのである。
おれは極度の方向音痴であり、知らない土地に用事があったり、打ち合わせに行く際は、今でも最低30分前、できれば1時間前には目的地の近くまで到着するようにしている。その日もまだ随分時間があったので、「これだけ時間があれば大丈夫だろう。散歩がてら歩いてりゃあ着くはずだ」とたかをくくったのが運の尽き、行けども行けども目的地のビルは見当たらず、あっという間に待ち合わせの時間が近づいてしまい仕方なく電話をかけた。
「もしもし、広大ですが……道に迷いまして……」
「笑 今どこ?」
「川……ですかね……」
「隅田川、大きいからなあ……」
などとのんびりしたやり取りの後、大人の男、金さんに見事に誘導され無事面接会場、というか金さんが勤務する会社に辿り着き、ちょっとしたミーティングルームのような部屋に通された。
「おおっ! 広大くん。昼間会うと顔が違うねえ!」
普段、飲み屋でしか会わない常連同士が、昼間バッタリ街で会ったときのクリシェを唱えながら金さんが登場する。その横には、たぶん偉い人が2名。実際偉かった。「制服採寸のアルバイト1人採用するのに、なぜこんなに立派な肩書の付いた名刺を持った偉い人が出てくるのだろうか」などと思いながら説明を聞いていくと、既に制服採寸をできることは決定しているらしい。どうやら面接ではなく、スケジューリングのために呼ばれたことが分かり、合法的に中学、高校に侵入できることに安堵した。
ちなみに、肝心の仕事内容は、こんな感じだった。
- 会社が受け持っている東京、関東近辺の学校を回ることになるため、勤務地は都度決定
- な仕事内容は会場設営、試着の手伝い、採寸
- 現地には会社の人間がいるので、その人の指示にしたがって動いれくれればOK
- スケジュール空いてたら、最初の勤務地は、某女子校(中高一貫)
簡単に諸々説明された後にギャランティの提示がされ、それは「日給8,000円」というものだった。もちろん問題はない。むしろ金額は問題でない。
「え? もらえるんですか? こっちが払うんじゃなくて?」
と言ってしまいそうになったほどである。そんなこんなで、あっという間に面接は終了し、そそくさと帰ろうとしたところ
「じゃ、飯でも行こうか」
と金さんに誘われ、近くのこぢんまりしているけれども時代の付いた天ぷら屋で、とても美味しい天ぷら定食をご馳走になった。仕事も紹介してもらえて天ぷらまで食わせてもらって、おまけに最初の勤務地は某女子校。帰りに見た隅田川は、行きと違い、飛び込みたくなるくらい綺麗に見えた。