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会社に行きたくない、だから私は妄想する

ゆきびっち ゆきびっち


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ケース3. 運命の人が現れた想定

意地でも会社に行きたくなってきた。ただ、お腹はすいてきたから朝食は食べたい。これから私はどうすればいいのだろうか。もういっそのこと、私の人生を揺るがすくらいのハッピーハプニングが起きればいいのに。

そういえばこの前、「水曜どうでしょう」を見すぎたせいか、北海道の開けた大地の真ん中で仁王立ちしていた大泉洋が、こちらに向かってきて「ゆき~大好きだ~」と叫んでいる夢を見た。私はどちらかというとミスター派だったのだが、もうその大泉洋の愛くるしい姿にすっかり心を奪われてしまった。詳しく言えば、ユーコン川の回くらいの大泉洋だった。もう同レベルのハッピーな出来事が私に訪れないだろうか。現実に。今ここで。

もう私も三十路だ。そろそろ運命の人が現れてもいいだろう。ここまで待ったんだし、仕事も頑張っているし、自分の代わりに涙を流す新人を慰めていたらもう涙腺が枯れてしまった。もうそろそろ無条件に私を抱きしめてくれる人が現れてもいいタイミングではないだろうか。

できたら肩幅の広くて男性らしいゴツゴツとした体つきがいい。多少は脂肪があっても許したい。落ち着いた低音でしっかり通る声に聞き惚れたい。少しやわらかめの黒髪で、切れ長の目に、シャープな輪郭は、造形的にも美しく感じる。

知り合いの中に見つからないのならば、知らない人でもいい。ただ知らない人にいきなりプロポーズされても怖いから、自己紹介と共にSNSのアカウントと名刺と身分証明書を見せてほしい。ちゃんとした戸籍があって、健全に社会生活を送っている人だったらいいだろう。

しかし、出会いは突然に、いきなりこの私の部屋に訪れるのだろうか。それだけはやめてほしい。寝間着には毛玉がついているし、顔はすっぴんで、洗顔前で寝たときにたまった脂が浮いている。髪の毛もぐちゃぐちゃだ。私の剛毛はところどころ折れて重力に逆らっている。昨夜酔っぱらって帰宅したから、飲み会の匂いがこびりついた服がソファの上に引っ掛かっている。

ここで会ったが最後、瞬殺で運命の人は帰宅するだろう。もう少し、その運命の人がこの部屋にやってくるのは待ってほしい。あと1日でいいから。いや、しかしいきなり訪れたら、そもそも親が驚くだろう。いくら毎晩酔っぱらって帰ってきてクダを巻いて寝落ちするような娘でも、突然知らないイケメンにさらわれていったら、警察に通報するだろう。運命の人の運命は私が守らなければ・・・

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7時半のアラームが鳴る。寝返りを打つと、ベッドの脇に猫が座ってこちらを見つめている。いつからそこにいたのだろうか。生ぬるい布団の中で体に力を入れて伸びをする。どうやら今日も、出社しなければいけないらしい。

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