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妻に言われた一言で愛は死んだ【連載】神様がボクを無職にした

フミコフミオ フミコフミオ


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ホームルーム。ワダ君は生涯忘れられないようなピュアな目線を僕に送り、軽く頷いてから勢いよく挙手! 担任にうながされたまま起立し、直立不動の姿勢で「チョコレートを貰えない人が可哀想なので、バレンタインのチョコレートは禁止したほうがいいと思います」とオタク特有の周りを意識しない大声で言った。直後に教室に垂れ込めた耳が痛いほどの、しーん、という静寂を僕はまだ忘れることができない。

「あいつ自分が貰えないから言っているだけじゃないの?」
「無様!」
「エンガチョ」

教室のあちらこちらからワダ君への悪口があがった。窮地に立たされたワダ君が、救いを求めるように僕の方を振り返った。自爆テロはひとりでやってくれ。僕はワダ君の目を避けるように窓の外を眺め続けた。校庭ではバカなヤンキーが奇声をあげながらチャリに二人乗りをしていた。そのとき、僕は気づいた。この世に正義などない。神は死んだのだ、と。そして今また神の不在をあらためて気づかされている。
 

認めたくないが、人間の価値は稼ぐ金で決まる。同じような外見、能力の人間が2人いたら、ほぼ確実に収入の高い者が選ばれる。悲しいけれど、これが日本の現実なのである。現在、僕の時給は935円。1日4時間、社員食堂の業務用食器洗浄機と格闘して食器を洗い続けて稼げるお金は3,740円。500円の賄い食を食べると、手元に残るのは3,240円。そこからTSUTAYA、チョコボール、塩大福、缶コーヒー、生茶、発泡酒、スルメ、『ゴルゴ13』掲載の『ビッグコミック』等々へ投資すると、スズメの涙ほどの金額しか残らない。妻と母。家族ふたりを養うのも極めて厳しい財政状態で、女子大生愛人を3LDKマンションに囲うなど夢のカリフォルニア。

このような身分なので家族から冷たく扱われても仕方がない。世間様からの風当たりも非常に強い。キャバクラ嬢からは既読スルーをされ、事あるごとにそこらのババア軍団からは舌打ちされ、隣家の犬には無視され、野良猫には「シャーッ」と威嚇される。日本国憲法に保障されているはずの基本的人権がこうも堂々と蔑ろにされていいものだろうか。嗚呼、社会からバカにされるのも、女にモテなくなったのも、全部、無職すれすれの時給935円生活のせい。金のせい。金が悪い。

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