今年一番インパクトのあった現場のお話
これから書くのはとっても印象深かった撮影です。そのタレントさんは現場に入ってくるなり、キツイことを言っていました。スタジオが狭いとか、予算がないの? 大丈夫? とか。さすがにそんなことをいきなり言うタレントさんはあまりいないので、現場の空気は張りつめました。僕も正直ビビリました。
微調整が終わってスタンバイができムービーのカメラ前に彼女が立つと、さらに緊張感が高まることを言い出しました。ストーリーボードを見て「こんなことを言って本当に売れると思ってるの? わたしはそうは思わない・・・」。台本はすでに送ってあり、目を通してもらっているはずなのに。監督はしどろもどろ、クライアントの商品担当の方が呼ばれ、その場でその日の撮影プランが改訂されて一応撮影はスタートしました。
その日、僕はすぐ隣のスペースにいて一部始終を見ていました。スチール撮影のスタンバイをしながら「うむむ、これはヤバい・・・」と思いつつも、どうやったら機嫌良く撮らせてもらえるか全く見当もつきませんでした。ただ、普通にやっていてはダメそうです。そうこうしている内に、もう彼女がカメラ前に立つタイミングです。
軽い挨拶をして、企画の意図などを説明しようとしました。まず感触を探りたかったのです、そこで「いや、いらないから」と一言。頭の中は半透明です。あらゆるリクエストが「分からない」「私はそうは思わない」と却下され、手に持った小道具を放り投げられる。すっかり飲まれ流されながら必死に食らいついてコミュニケーションをとりました。比喩ではなく本当に食らいついていました。
「何とか接点をつくらないと!」
ポスターや中吊り広告のビジュアルが悲惨になることは目に見えていたからです。ブスッとした顔ばかりの広告なんて誰も見向きしてくれません。ずっと喉はカラカラ。半年間一緒に創り上げてきたクライアントにもコピーライターにもデザイナーにもカメラマンにも申し訳が立ちません。
結果
結果的には良い写真が撮れました。最後の方は普通に話もできたし、撮影の途中には後ろからグーで思いっきり肩を殴られたし。時間が限られ追い込まれた状況でなりふり構わず必死になれば、自分でも想像していなかったようなパワーが出せるのかと、勉強になった撮影現場でした。