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勉強がしたい【連載】松尾英里子のウラオモテ

松尾英里子 松尾英里子


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我が家の近くの学校に通う高校生たちが、駅で大学受験のことを話している。冬の始まりだなあ、と思う。

将来の夢もビジョンも描けなくて、漠然とした不安に包まれなんとなくモヤモヤした気持ちのまま過ごしていた高校時代。窓側の、雲の観察には最高の席に座って、吸い込まれそうに澄んだ空を見上げながら、でもまあそうは言っても、10年後の自分も、きっと元気でそれなりに楽しく暮らしているんだろう、なんて思っていた。個性豊かな友達ばかりの女子高には、羞恥心という言葉は存在せず、何をやるにもいちいち大騒ぎ。何がどう楽しかったのか、なぜだかまるで思い出せないが、いい時代だった。そしてあの頃、空を見上げて思った通り、確かにあれから10年後の私は、元気に、それなりに楽しく暮らしていた。でももし仮にタイムマシンに乗って、高校時代の自分に会えるとしたら、一言言いたい。「いいから勉強しろ。」

そう、勉強。

可笑しな話だか、今、とても勉強がしたい。何が、とかじゃない。何でもいいから勉強したい。あの頃苦手だった地理も世界史も、箱ティッシュ(私物)を枕にぐうぐう寝ていた倫理や古典も、今となれば先生に申し訳ないだけでなく、「ああ、どうしてそんな勿体ないことを・・・」という気持ちになる。

苦手だった英語もそうだ。なんちゃら構文も不定詞も、当時はもうすみませんごめんなさいのアレルギー状態。英語だけで受験できる大学など、一体どんな人が受けるのだろうと心の底から不思議なくらいで、多少興味があったとしても英語の配点を見て諦めたものだ。大丈夫。受験英語が分からなくても、もし万が一、海外に住むような日がやってきたなら、きっと必要に迫られてなんとかなる。そう、固く信じていた。(ちなみに、約10年後、期せずしてアメリカに住むことになったわけだが、残念ながら住むだけでは話せるようになどならず、英語を話す機会を自分から意図的に持ち、努力しないと、話せるようにはならないことを知った)それなのに、今、こんなに勉強したい。

一日のほとんどの時間を育児に費やしている今、会社員時代に比べて情報のインプットが激減した。読みたい本もたくさんあるのだが、子どもと共に寝落ちしてしまう毎日。たまに時間ができたとしても、次の食事のメニューを考えたり、離乳食を作り置きしたり、なかなか読書までたどり着くのは難しい。机上の勉強だけではない。もしこの花のことを知っていたら・・・。もしあの鳥のことを知っていたら・・・。子どもたちを連れてのいつもの散歩で、次に花が咲く時期を教えたり「鳥がいるね」だけではない会話をしたりできるのに。それがとても悔しい。

勉強。

受験生の頃は何も思わなかったけれど、勉強って、いいもんだ。勉強できる時間を持てるって、有り難いことだ。そんなことをしみじみ思うようになった最近。これもまた、子どもを持って変わったことの一つだろうか。

「みんな! 長丁場だけど、風邪ひかないで、頑張るんだよ」電車に乗り込む高校生の後ろ姿にエールを送ってみた。さて、私も「時間がない、時間がない!」だけじゃなくて、まずは時間を作る努力をしてみようか。

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