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「エジソンズ・ゲーム」は神々の戦いに対する、私たちの”度量”を試す

平野陽子 平野陽子


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天才は、羨望と恐怖のまなざしを常に向けられている。どちらも、決して横に寄り添う視線ではなく、ゆえに彼らには理解者が必要不可欠だ。
けれども、同じ目線や視座であっても、天才同士が仲良くなれるとは限らない。この「エジソンズ・ゲーム」の原題が「The Current War」の通り、本作はたった約130年前の、トーマス・エジソン(ベネディクト・カンバーバッチ)とジョージ・ウェスティングハウス(マイケル・シャノン)の熾烈な「電流戦争」を主題としている。

「発明王・エジソン」の人物像と「電流戦争」

エジソンを「電球を作った世紀の天才発明家」と捉え、「イミテーション・ゲーム」でアラン・チューリングを演じたベネディクト・カンバーバッチの姿を想起して本作を観ると、予想を裏切られる。
エジソンは案外エキセントリックだし、爆発力の裏返しで抑制の効かない部分を併せ持つ人物像をしている。


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出典:IMDb

エジソンは、電球に限らず、アイディアを「日常で使える形」にすることに情熱を燃やし、行動力の塊でもある。
彼が、発明・改善したものは、「電話機」「電球」「蓄音機」「映写機」などが有名だが、電球の回路設計を応用し、「トースター」や「電気アイロン」といった家電製品も生み出している。発想の対象と幅がとても広く、そのDNAを引き継いだ「GE(ゼネラル・エレクトリック)」が多角経営のコングロマリットと化しているのも理解できる。
(実際のエジソンの発明品の数々は、日本だと栃木県下都賀郡壬生町の「バンダイミュージアム」で間近に見ることができる)

他方、その発想の豊かさや行動力ゆえに、電話など「この部分を突破すれば普及する」技術に取り組んだ場合、特許を争うこともしばしばあった。
エキセントリックだが、アイディアと行動力のある天才は、人々に夢を与え、記憶に残る人気者である。

自身も鉄道の自動ブレーキ技術の発明を行い、豊かな事業拡大につなげてきたジョージ・ウェスティングハウスもまた、実業を着実に積み上げる天才だ。


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出典:IMDb

彼はエジソンの技術に何度も敬意を表しつつも、ビジネスにおいては「より多くの人がアクセスできること」を最優先に考え物事を進める。
人気者ではないが、確実に当時の社会を豊かにする事業主でもあった。

「電力」の普及にあたり、電流を常に一定方向にのみ流す”直流”送電方式をエジソンは選択したが、ウェスティングハウスは、1台の発電機で遠くまで送電できるという理由で、電流、電圧が周期的に変化する”交流”送電方式を選択。その実演会で、エジソンの電球を使ったことで、発明の盗用とエジソンは感じ、2人の間は大いにこじれ、「電流戦争」といわれる熾烈な競争が発生する。


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出典元:関西電力HP

私たちにはこの直流、交流の話は、小学校で初めて乾電池で豆電球を灯した思い出だが、エジソンvsウェスティングハウスの戦いは「規格戦争」。熾烈な争いを極める中に、さらなる未来の電力のあり方を描く天才科学者二コラ・テスラ(ニコラス・ホルト)の登場で、より熾烈な争いへと発展する。


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出典:IMDb

個人的には、白塗りじゃないニコラス・ホルトを映画で見るのは久しぶりだ。
「マッドマックス 怒りのデス・ロード」でも、「女王陛下のお気に入り」でも白塗りの印象が強い。


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出典:IMDb


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出典:IMDb

神々による規格争奪戦のおぞましさ

冒頭に、「天才は羨望と恐怖のまなざしを向けられている」と書いた通り、天才たちが執着を持って目的に向かうパワーは、常人には想像しがたいほど強く、さまざまな犠牲や恐ろしいやり口も伴う。「電力の普及」という万人を幸せにする「大きな目的」を持つ彼らの前には「小さなこと」に過ぎないが、この「電流戦争」の過程では「電気椅子」まで生まれてしまう。(唯一ネタバレをすると、馬に乗っている人には体調が悪くなるシーンがある。私は寝込んだ。)


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出典:IMDb

主演のベネディクト・カンバーバッチも、

これは2人の白人がただ電気の争いをしてる話じゃない。何かに向かう道のりの中で何を選択するか。何を失うのか。現代ともつながる話で、男のエゴの話でもある。
(出典:公式パンフレット)

と評しており、力のある人同士が戦うことの怖さも感じる光景がちりばめられている。

その戦いを支援する者たち

えげつない争いを繰り広げる、エジソンとウェスティングハウスだが、2人にはちゃんと味方がいる。ウェスティングハウスは技術者のポープと妻が、エジソンは秘書のサミュエル・インサル(トム・ホランド)が時として苦言を呈しながらそばにいる。悲しいことに、テスラだけ味方が少ない。


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出典:IMDb

特筆すべきは、JPモルガン(マシュー・マクファディン)で、現在でも彼の会社は巨大金融サービス企業だが、「やや難あり」の投資先に対して、メンタリングや粘り強い出資を行う。


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出典:IMDb

この作品では、天才と呼ばれる発明家や実業家、科学者に対して、資金だけではない強い援助が産業を育てるということを教えてくれる。
誰かをサポートする際の腹の括り方についても、非常に考えさせられる存在だ。

「電流戦争」の恩恵と私たちができること

私たちはコンセントで手軽に安全に”交流”送電方式の電気を使い、「懐中電灯」や「スマートフォン」や「バッテリー」など手元で使う電化製品には安定した”直流”の恩恵を受けている。2人の熾烈な争いは、全ての人の生活を豊かにしたことは間違いないだろう。

ジャンルの違う天才が揃い、時に能力の違うお互いを羨ましく思いながら切磋琢磨する状況が、後世の恩恵につながったのは、応援する人や熱狂する人あってこそ。
神々の戦いとして距離を置かず、才能の違う相手を喜び、粘り強く支援をした方がうんと世の中は前に進む。多様な個性を受け入れて人と人が協力する重要性を改めて本作は思い出させてくれる。

もし、身近にテスラみたいな人がいても、応援できる度量の人が多ければ、私たちの後の人達もまた、豊かな未来があるはずだ。


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[イラスト]清澤春香

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