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「エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ」が描く、痛くて恥ずかしいあの頃。

平野陽子 平野陽子


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もし、あなたが「うちのクラス、当時は仲悪かったよね~! 今は仲良くして!」と学生時代違うグループだった子に大人になって言えるタイプなら、この「エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ」は意味不明な93分だろう。
でも、あなたが今の一言を聞いて「チクッとした気持ち」が奥底に生まれる人なら、絶対に見た方がいい。
この映画は、あなたと私の“あの頃”を、“いまの世界”で描いている。


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出典元:IMDb

「エイス・グレード」は、日本の中学2年生の年齢だが、ライフイベント的には区切りの年だ。

アメリカの教育制度は、K(幼稚園年長の年)、グレード1~5が小学校、6~8が中学校で、高校が9~12という仕組みが多い。
日本には「中二病」という言葉があるように、幼さと大人への興味が混ざり始めフクザツな感情を抱えるその時期に、彼らは中学から高校という節目を経験する。

SNSと共に生きる“ジェネレーションZ”の世界

中学生活最後の1週間を迎えた主人公のケイラは、「学年で最も無口な子」という、かなり不名誉なポジションに選ばれてしまう。「世界でいちばんクールな私へ」というのは、入学時に各自がデコレーションした靴箱に好きなものを詰めて渡し、卒業時に再び戻される「タイムカプセル」にケイラ自身が書いたメッセージだ。

当然、入学時に思い描いていたものと違うことを突き付けてくるシーンでもある。

最後の1週間ぐらい、不器用な自分を何とか変えようと思って、SNSを駆使してクラスメイト達とつながろうと頑張るのだけど空回り。なかなかスクールカースト頂点のメンバーとは絡めないし、好きな男の子にもアプローチがうまくできない。


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出典元:IMDb

ケイラの趣味はYouTubeに毎日ライフスタイルのアドバイス動画を更新すること。食事中もSNSにどっぷりの娘を心配し、同じく空回りしてしまう優しい父親と二人で暮らしている。

このSNSと共に生きている“ジェネレーションZ”と呼ばれる世代をリアルに描いたのは、自身も元YouTuberという異色の経歴を持つ28歳のボー・バーナム監督だ。

セルフィーを撮ったりYouTubeにアップしたりする様子など、日常が映像になる今の感覚を織り交ぜたアングルへの工夫も、観客にリアルな93分を感じさせる本作は、オバマ前アメリカ大統領も2018年年間ベスト映画に選出したり、「ROMA/ローマ」で第91回アカデミー賞外国語映画賞を受賞したA・キュアロン監督も「ここ最近で一番、泣いた映画」と絶賛したりするなど、多くの人を魅了している。
ケイラを演じたエルシー・フィッシャーが、2018年に最も多く新人映画賞を獲得した話題作だ。


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出典元:IMDb

撮影風景の画像でも見られるように、ボー・バーナム監督は、出演者のティーン達との会話を通じて得た「ティーンから見たSNS」に関する情報をセリフや演出に織りまぜてながら話を進めていく。
例えば、監督は当初生徒たちにFacebookのメッセンジャーをやり取りに使わせた演出にしようとしていたものの、ケイラ役のエルシーのアドバイスで、劇中ではInstagramのDMやSnapchatのフィルターを使ったやり取りが中心となり、Facebookは主に親世代のコミュニケーションツールとして描かれている。

そうだ、青春って、痛くて恥ずかしかった

学校には、ガサツで意地悪な部分がある。ケイラの「学年で最も無口な子」だって、正直別にそんな称号つける必要なんかないのに、それがまかり通る。
さらに、今のティーンには「いいね」の数がわかるSNSが生まれた時から生活に溶け込んでおり、気にしない方が難しい

おしゃれな方がいいし、スタイルが良い方が中身が伴わなくても人気者だ。
早いうちから容姿や友達の数などが「いいね」と共に可視化され、コンプレックスも刺激される。

過酷な中でも、ケイラなりに一生懸命努力をして、もがく。

しんどい称号をつけられ、理想と現実の違いを突き付けてきたタイムカプセルを渡されても、仲良くなりたい子に「良かったね」と小声で話しかけて無視されたり、スクールカーストのトップの女子の誕生日を祝う地獄のようなプールパーティーも勇気を出して行ってみるし、好きなイケメンに謎のタイミングで話しかけてみたり、その彼のご要望に合わせて苦手なバナナをかじってみたりする。


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出典元:IMDb


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出典元:IMDb

もう、全ての努力が、本当に見てて痛々しいし、身につまされるし、嫌な汗が出てくる光景だ。
映画館じゃなかったら、多分、「ギャーーー! 止めてー! 」と叫んでいたであろう、リアルタイム黒歴史を目撃する。

ケイラがミスる数々のコミュニケーションに、多くの人が自分の黒歴史の扉を開けられ、悶絶しながら応援してしまうだろう。

高校の足音が、ケイラの視野を広げていく

憧れのイケメン過ぎて、登場シーンが全てBGM付で表現されるエイデンは確かにオフショットでもかっこいい。


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出典元:IMDb

ただ、大人になると、ケイラが気にしている相手って、案外どうでもいい存在になる。
狭いスクールカーストを引きずってる女子なんて信頼されないし、イケメンでもアホ街道を走り過ぎると謎人物扱いだ。

でも、中学の狭い価値観では、自信のない女の子は「パリピ」っぽい女子や「イケメン」男子が「クール」だと感じ、地味な自分のふがいなさに苦しむ。
先ほどのイケメン男子エイデンも、大人から見たら、しょうもない珍行動が満載なのだけど、ケイラはまだ気づかない。

ケイラは、その状況を高校までに何とかしたいと心から願い、高校見学の前日に切実に願う。
「その後が大変でもいい。神様、明日だけは最高の1日にしてください!」と。

その願いを神様が叶えてくれたかのように、高校見学でペアになってくれたオリヴィアは本当に素敵な人だ。


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出典元:IMDb

彼女は、ケイラの自信の無さにもとても優しく、仲良くなってくれる。
「仲のいい友達は、高校でちゃんとできるよ!」と元気づけられ、ケイラは少し希望を持てた直後、「女」として見られる怖さも味わうショックな体験が起きたりと、高校の足音は、ケイラの視野を明るく、時として強引に広げていく。

その後、久しぶりに向き合った父との対話から、ケイラが「比較ではない自分自身の価値とは何か」に触れるシーンが、私は一番美しいと思う。

この世の中で、“物静かであること”の物語

主人公のケイラも、見ながら応援してしまう人も、外交的で派手になれない悩みを起点とした「何かしらの青春時代の痛み」だったり「黒歴史的な思い出」を抱えている。
コメディアンやYouTuberとしても活躍した経験からは驚くほど、バーナム監督はその「物静かであること」にスポットライトを本作で当てている。

インタビューでも、

この映画自体シャイで物静かであることについての物語だと思うし、それを一つの美徳として、意味深いものとして描いた。現代は常に外交的であることが望まれていて、インターネットのための世界でもあって、その中で物静かであることはどうなのか、ということを描いた作品。
出展元:公式パンフレットインタビューより

と語る。

「どう見られるか?」を否が応でも突き付けてくる“いま”の景色の中で、物静かながらももがき、思春期の痛み真っただ中を頑張るケイラに、“あの頃”の自分も重ねながら、じっくり恥ずかしくてもどかしくてさわやかな気持ちを映画館で味わってもらいたいなと感じる作品だ。


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[イラスト]ダニエル

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