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30歳童貞が銭湯での殺人を経て、自己成長をする物語「メランコリック」には共感しかない

さかかな さかかな


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銭湯に行くまではめんどくさい。しかし行ってしまえば「あぁ、来てよかった」と思うだろう。広い湯船に浸かると、一日の疲れが溶け出すようで気持ちがいい。

映画「メランコリック」は、まるで銭湯のように“精神の浄化”を感じるための物語である。

「仕事を待っているだけではダメだ」と言う無名俳優たちの自主制作映画

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出典:映画.com

誰かに勧めたくなる「メランコリック」は、無名俳優たちが300万円という低予算で制作した映画だ。

ほとばしる熱量を感じる映像。サスペンスかと思いきや、少女漫画のような恋物語に展開。終盤には「ジョン・ウィック」ばりのアクションシーン。

知らない俳優だから登場人物たちを先入観なく見ることができる面白さもある。

「メランコリック」は第31回東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門で監督賞を受賞し、話題になった。

https://2018.tiff-jp.net/news/ja/files/2018/11/Melancholic.jpg
出典:東京国際映画祭

その後、口コミを中心に話題となっていった。令和元年で一番、口コミで広まっている映画と言ってもいいかもしれない。

主人公がバイトを始めた松の湯。そこでは、深夜に人殺しが行われていた!?

名門大学を卒業後、うだつの上がらない生活を送っていた主人公・鍋岡和彦。ある夜、たまたま訪れた銭湯・松の湯で高校の同級生・百合と再会する。それがきっかけで和彦は松の湯で働くこととなる。

その後、鍋岡は松の湯が閉店後に、人殺しの場所として貸し出していることを知ってしまい……。

マトモな世界でも、狂った世界でもうまくいかない主人公の憂鬱

鍋岡は東大卒ニート。良い大学を出て良い会社に入るという「幸せになるレール」から外れた青年である。現代の「高学歴なのに就職しない若者」の象徴とも言える。

そして彼は、他人との他愛もない雑談が苦手な、俗に言うコミュ障だ。

高校の同窓会では、なんとなくうまく馴染むことができず、いてもいなくても変わらない存在として映し出されている。

https://eiga.k-img.com/images/movie/89872/photo/d9512c4402ebfa50/640.jpg?1556251238
出典:映画.com

「なんで東大を出たのに、銭湯で働くの?」

「なんででしょうね」

松の湯の面接で、オーナー東(あずま)に、志望動機を聞かれるもとぼけた返事をする鍋岡。

思わず自分の周りにいるコミュ障を想像し、気が滅入ってしまう。

「お風呂屋さんの仕事も、結構あぶないんですね」

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出典:映画.com

鍋岡は松の湯の秘密を知ってしまった代償として、殺人現場(銭湯)の清掃をすることになる。その報酬を手にすると、鍋岡は嬉しそうな顔をする。

人殺しに巻き込まれたことよりも、特別な仕事によって、承認欲求を満たされたのだろう。

鍋岡は目の前の欲に素直だ。

しかしある日、その「特別な仕事」は本来同僚の松本が請け負うものだったと知り、鍋岡は面白くない顔をする。

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出典:映画.com

働いたことのある人なら一度は持ってしまう「他人を疎ましく思う気持ち」を彼は隠しきれない。

「あぁ、やめてくれよ」と思ってしまう。社会に出たばかりの頃、仕事を任されたときの高揚感とその仕事は私でなくてもいいことを知ったときの絶望感。魚の骨が喉に刺さったような痛み。

忘れかけていた青臭い感情を、鍋岡を通して突きつけられる。

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出典:映画.com

はじめは承認欲求が満たしきれず不満げだった鍋岡だが、松本と仕事をしていくうちに仲間意識を持つようになり、松本を敬慕する。

鍋岡は確かにコミュ障だが、素直でいいやつなのだ。

人生とは やりがいを持つとうまくいくものらしい。

銭湯の仕事にやりがいを見出した鍋岡は、百合との距離も順調に縮めていく。

「なぜ、こんなにかわいい百合が鍋岡に」と思うが、恋なんてそんなものかもしれない。

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出典:映画.com

百合は率直な性格で、人に偏見を抱いたりせず、自分の意見も言える。こんなにもあっけらかんと笑う30歳がいていいのか、というくらいかわいい。

ツンと冷たい空気の中を、好きな子の横を歩きながら告白するタイミングを見計らう。心臓が破裂しそうなほどドキドキする。

高校生の頃に感じた生生しいトキメキがこの映画にはある。

幸せについて本気出して考えてみた

鍋岡は狂った世界で「幸せ」を知った。松本との友人関係。百合との恋人関係。

彼は目の前の欲に正直だ。自分に声をかけてくれた異性に好意を寄せ、殺人という悪よりも報酬と仲間を得られたことが嬉しい。

 

けれど鍋岡は今まで、「自分の幸せに」については本気で考えてこなかったのではないだろうか。

彼はみなが知っている「東大」だったから東大に行った。東大で過ごす意義を見つけ出さなかったから、自分の幸せがわからずレールから外れてしまったのではないだろうか。

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出典:映画.com

ある夜、鍋岡と松本は酒を酌み交わす。松本は鍋岡に聞く。

「もう何万回も聞かれてると思うんすけど、なんで鍋岡さんって、東大出てわざわざ銭湯で働いてるんっすか?」

「東大だからって、就職して幸せにならなきゃいけないのかよ」

「確かに」

「でも、幸せにはなりたい」

オーナーの東に同じ質問を受けたときは薄ら笑いで返していた鍋岡は、狂った世界で愛と友情を知り、「幸せになりたい」という欲求をようやく見つけることができた。

「幸せになりたい」という欲求は、今幸せではないことを認めなければ言えない。

うだつのあがらない憂鬱な人生=メランコリックを受け入れられたからこそ、最後に「人生に何度かしか訪れない瞬間」に気づけたのだ。

コミュ障や東大卒でなくても鍋岡に自分を重ねてしまう。それは彼が私たちと同じで、特別な人間でないからだろう。

映画「メランコリック」を通して私たちは鍋岡の成長を客観的に感じ、カタルシスを追体験することができるのだ。

 

銭湯とはカタルシスを体験する場である

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出典:シネマトゥデイ

カタルシスとは「精神の浄化作用」のことだ。これは銭湯と同義ではないか。

「メランコリック」のプロデューサーであり、鍋岡役の皆川は制作した理由を「待っていてもはじまらない」と語っている。

僕も以前はそうでしたが、役者仲間で飲みに行くと『なんで俺を使ってくれないんだ』とか、人まかせの愚痴が多くなる。

それがすごく情けなくて。

だったら自分たちで立ち上げるしかないと思い、小劇場時代に知り合った田中くん、そして映画の共演で知り合った磯崎くんに声をかけ、映画製作ユニット『One Goose』を結成しました。

出典:『メランコリック』皆川暢二、イケメンな素顔に注目

彼らも憂鬱な日常を受け入れ、自分たちができることを全力でした結果、「人生に何度かしか訪れない瞬間」として第31回東京国際映画祭で監督賞を受賞し、全国上映を手に入れた。

制作者たちの決意の裏には憂鬱でうだつの上がらない日々がある。

「銭湯で人殺し」というアイディアは突飛であるが、テーマは「青年の自己成長」という普遍的なものだ。

ポスターは陰鬱なものに見えるが、ストーリーは成長物語で甘酸っぱい。

鍋岡はコミュ障でめんどくさく見えるが、根は優しく芯が強い。松本は一見金髪でちゃらけているが、職人気質で気が使えて優しい。

メランコリック(人生)とカタルシス(銭湯)は表裏一体なのだ。

物語の終盤にヤクザが言った「東さんはよぉ、今までのままがよかったんだと。お前らみたいな、若いやつが変えちまえっていうのが怖いんだと」というセリフ。

そうなんだ。変わるのは怖いんだ。でも幸せになりたいんだよ。

そのために気を許せる仲間、支えてくれる彼女や家族。恵まれた環境でどれほどぬるい世界だと言われても、私たちにそれらは必要で、それでいいのだ。

今がんばっている人ほど、わけもわからずに焦っている人ほど、鍋岡のコミュ障さに苛立ちを覚えながら彼に、いや彼の人生に共感をするのだ。

「あぁ、観てよかった」と。

観た後に、銭湯の帰り道のような気持ちになる映画「メランコリック」。映画館に足を運ぶから得られるカタルシスがある。


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[イラスト]ダニエル

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