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「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」ネタバレ寸止めの妄想ラジオ!

宮下卓也 宮下卓也


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今、「腋毛」が流行っているのか?

クエンティン・タランティーノの長編監督第9作「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」は、ネタバレ厳禁の映画である。もちろん、コラムの冒頭に「ネタバレ注意」と書いてしまえば、ネタバレしても構わないのだが、そうすると映画未見のかたには読んでもらえない可能性がでてくる。どうせなら多くのかたに読んで欲しいので、「ネタバレせずにこの映画の魅力を伝えるにはどうしたらよいか?」を思案してみた。思いついたのが、この映画でもしばしば描かれる「ラジオ」である。ラジオ番組の映画解説は普通ネタバレしない。(“普通”と断ったのは、関西では有名な某浜村淳氏のラジオ映画解説は全編ネタバレする、という例外があるからだ) 。今回はタランティーノファンのラジオDJふたりが映画について語り合うという設定ですすめてみよう。それでは、タランティーノ映画おなじみのジングル曲「ファンキー・ファンファーレ」からの、ラジオ番組スタート!

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― 某ラジオ番組のスタジオ
ウェイン: はい、みなさんこんばんは! 今回「新作映画コーナー」を担当するウェインと、
ガース: ガースです! えーと、今日は「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」の魅力についてネタバレなしで語りあってくれというお題ですが。
ウェイン: 無理でーす。
ガース: はい、終了でーす。
ウェイン: 総員、撤収してくださーい!
ガース: ……。
ウェイン: ……。
(ブースの外にいるディレクターから「ギャラは払わない」のカンペ)
ガース: では、やりますか。
ウェイン: やりますか。
ガース: まずは主役の二人について話しましょうか。
ウェイン: はい、主人公のリック・ダルトン(レオナルド・ディカプリオ)は、1950年代にはテレビドラマの西部劇で人気者だったけど、映画で描かれる1969年には落ち目になっている、という設定です。


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出典: IMDb
ガース: はい。で、もう一人は。
ウェイン: リックの専属スタントマンであり、雑用係で親友でもあるクリフ・ブース(ブラッド・ピット)。


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出典: IMDb
ウェイン: レオ様&ブラピ二大スター夢の競演ですな。


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出典: IMDb
ガース: 「レオ様」って呼び方、ひさびさに聞きました。
ウェイン: 「レオ様」っていえば、これか。


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出典: IMDb
ガース: 「タイタニック」(1997年)って、もう20年以上も前の映画なのね。
ウェイン: 若い人は知らないかもな。
ガース: 昔はよく、カップルが船の舳先であのポーズやってたけど。
ウェイン: そういうことするヤツらは、たいがいブスだけどな。
ガース: ブスとか言っちゃいけません。
ウェイン: タランティーノの世界に、ことばのタブーはありません。
ガース: でも、ディカプリオって、「タイタニック」以降、イヤなやつとか汚れ役とか多いよね。
ウェイン: やっぱり、オスカーが欲しかったんじゃない? あと、監督もそうとう選んでるよね。スコセッシと何度も組んで、スピルバーグ(「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」(2002年))、ノーラン(「インセプション」(2010年))、イーストウッド(「J・エドガー」(2011年))、一流どころがずらりと並ぶ。
ガース: 「レヴェナント: 蘇えりし者」(2015年)でついにオスカー受賞。
ウェイン: タランティーノの「ジャンゴ 繋がれざる者」(2012年)では、黒人を差別する南部の農場主って、要は仇役でしょ? こういう役をやり続けたディカプリオは偉いよ。


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出典: IMDb
ガース: ディカプリオは「スター」である前に「アクター」だよね。今回の映画でも抜群に芝居がうまい。
ウェイン: ジェームス・ディーンの「エデンの東」(1955年)を観て役者を志した人だからね。
ガース: あぁ、マーロン・ブランドやポール・ニューマンのような系譜か。
ウェイン: そうそう。「アクターズ・スタジオ」でリー・ストラスバーグから「スタニスラフスキー理論」とか学んだ人たち。
ガース: この映画にはアル・パチーノが出てるけど、彼が現存するそっち系の最後のスターだから、共演はうれしかっただろうね。
ウェイン: そして、ディカプリオと対照的に、ブラピは純粋な「映画スター」なわけ。
ガース: どういうこと?
ウェイン: 「アクター」は「芝居をする人」だけど、純粋な「映画スター」はいわば「立ってるだけで絵になる人」。
ガース: 日本でいえば、高倉健みたいな人か。
ウェイン: それそれ。ハリウッドでいうと、古くはジョン・ウェインとか。イーストウッドも。そして、トム・クルーズ。
ガース: あぁ、演技の賞には無縁な人たち。
ウェイン: ブラッド・ピットはこちらの系譜。
ガース: 今回の映画も、ホント絵になるよね、立ってるだけで。
ウェイン: 脱ぐしね。

ガース: あぁ、テレビのアンテナ直すシーンで上半身裸に。脱ぐ必然性ゼロだけどね。
ウェイン: 55歳には見えないよね、あの身体。
ガース: あのシーンで、ブラピファンは何杯でもご飯おかわりできるだろうね。
ウェイン: ブラピのフィルモグラフィみると、テリー・ギリアムの「12モンキーズ」(1995年)があって、デビッド・フィンチャーとのコラボが代表作か。「セブン」(1995年)、「ファイト・クラブ」(1999年)、「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」(2008年)。
ガース: タランティーノの映画は「イングロリアス・バスターズ」(2009年)で主演か。


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出典: IMDb
ウェイン: 「イングロリアス・バスターズ」の話を深掘りすると、確実に今回の映画のネタバレするから、今日は触れづらいねぇ。
ガース: じゃあ話しを戻して。落ち目のスターがディカプリオで、そのスタントマンがブラピ。
ウェイン: さっきの「役者の系譜」話でいうと、本来キャスティングは逆だよね。
ガース: あ、そうか。「映画スター」はブラピだもんね。
ウェイン: でも、今回の映画ではこれでよくて、スタントマンは「映画スター」のようにかっこよく、落ち目のスターは人間臭い弱い男として描かれてる。
ガース: そして、ふたりの演技は最高だった!
ウェイン: うん、タランティーノの演出も冴えてたよね。
ガース: じゃあ二大スターの話はこれくらいにして、一曲いきましょうか。
ウェイン: Roy Head & The Traitsで「Treat Her Right」!

ガース: 続いては、舞台設定となる1969年についても喋りますか。
ウェイン: そうね。1969年は「アメリカの歴史」「ハリウッドの歴史」両方のターニング・ポイントだった年だね。
ガース: 両方大事なのね。
ウェイン: Yes. ただ「アメリカの歴史」はベトナム戦争とかヒッピー・ムーブメントとか、基本的なことさえ知ってれば大丈夫。
ガース: 深く知らなくてよいと。
ウェイン: だってタランティーノにとっては「歴史性」なんて映画を撮るための口実だから。
ガース: ん?
ウェイン: 例えば「イングロリアス・バスターズ」は「ユダヤ人問題」を語りたいわけではなく、たんに「ユダヤ人がナチスをバンバン殺す」シーンを撮りたいのだし、「ジャンゴ」では「黒人差別問題」を語りたいわけではなく、たんに「黒人が白人をバンバン殺す」シーンを撮りたいのよ。
ガース: 政治性がないと。
ウェイン: 「政治性がない」のも政治性だけど。
ガース: 今回の映画も政治性はないってことね。
ウェイン: タランティーノにとっては、アメリカの風俗史や彼自身の個人史のほうが重要。
ガース: じゃあ、「ハリウッドの歴史」は?
ウェイン: こっちは重要さ。なんせタランティーノは「世界一有名な映画オタク」だから。彼の教養は、すべて映画経由といってもいい。
ガース: 1969年はハリウッドにとってどういう時代だったの?
ウェイン: 話せば長くなるのでキーワードだけいうと、「テレビ」「ヘイズ・コード」かな。
ガース: もうちょい説明してよ。
ウェイン: 1950年代に登場したテレビが、それまで娯楽の王様だった映画からその玉座を奪うのよ。
ガース: ディカプリオ扮するリックは、テレビのスターだもんね。
ウェイン: だから、映画界はテレビでは出来ないこと、例えば大型スクリーンを導入したりした。
ガース: なるほど。
ウェイン: ただし、テレビ界も変革期で、昔からある西部劇なんかも人気が落ちてきたの。
ガース: だからリックは仕事がなくなるのか。
ウェイン: もうひとつの「ヘイズ・コード」というのは映画業界の自主規制条項で、性描写や暴力描写を制限してきたんだけど、これが1969年の少し前に撤廃されるの。
ガース: はぁ。
ウェイン: そして、テレビの隆盛とハリウッド・メジャーの衰退により、大きなスタジオは維持できなくなり、大規模なセットが組めなくなった。
ガース: で、どうなったの?
ウェイン: 大雑把にいうと、「アメリカン・ニュー・シネマ」のようなムーブメントがおこった。性のタブーは破られ(「卒業」(1967年))、スタジオから外に飛び出し(「イージー・ライダー」(1969年))、激しい暴力描写が描かれるようになった(「俺たちに明日はない」(1967年)、「ワイルドバンチ」(1969年))。
ガース: タランティーノは「アメリカン・ニュー・シネマ」の延長線上にいるんだね。
ウェイン: そうなんだけど、タランティーノは古き良きクラシックなハリウッド映画も大好きだからね。ここは重要なところ。
ガース: 「アメリカン・ニュー・シネマ」はその後どうなったの?
ウェイン: まぁ、革新的なものって、それが当たり前になった時点で陳腐になるよね。だからすぐ廃れた。
ガース: 今のこどもたちは最初の「ジュラシック・パーク」や「マトリックス」観ても驚かないもんな。
ウェイン: では、ここでもう一曲いきましょう。
ガース: Paul Revere & The Raidersで「Good Thing」。

ウェイン: で、話を戻すと、1969年は「アメリカの歴史」的にも「ハリウッドの歴史」的にも大きな転換期なのよ。
ガース: で、リック(ディカプリオ)もクリフ(ブラピ)もこの変化の流れに乗れなかったんだね。
ウェイン: そう。乗り切った実在のスターは、たとえば映画の中にも出てきたけど、スティーブ・マックイーン。
ガース: 「大脱走」(1963年)の人ね。

ウェイン: 今回の映画でマックイーンをやった俳優、全然マックイーンに似てないのには驚いたけど。
ガース: ブルース・リーはそっくりだったのにね。


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出典: IMDb
ウェイン: あと、映画のなかでアル・パチーノ扮するプロデューサーにイタリア行きを勧められ、結局リック(ディカプリオ)もクリフ(ブラピ)もイタリアに行くわけだけど、ここでも実在の映画スターで明暗が分かれるんだよね。
ガース: ああ! テレビの西部劇からイタリア製西部劇「マカロニ・ウェスタン」で成功した人といえば、イーストウッドか!
ウェイン: そう。まだ現役の人だから、この映画ではまったく触れられてないけど、クリント・イーストウッドとセルジオ・レオーネ監督のコンビは有名だよね。
ガース: セルジオ・レオーネはタランティーノが最も尊敬する監督のひとりだね。
ウェイン: 今回の映画では、「二番目の成功例」であるバート・レイノルズセルジオ・コルブッチ監督のコンビがモデルになってた。


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出典: IMDb

ガース: リック(ディカプリオ)もクリフ(ブラピ)も「マカロニ・ウェスタン」で成功するのかと思ったけど……。
ウェイン: ちなみに、リックのモデルとなったバート・レイノルズは、この映画に出演予定で、リハーサルあたりまで参加してたんだけど、急死しちゃったんだよね。
ガース: え! そうなんだ。どの役?
ウェイン: 「スパーン映画牧場」の盲目の老人役。ブルース・ダーンが急遽、代役。
ガース: へー。
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はい、カット!
(突然、編集長登場)
宮下: え?
編集長: 長い。宮下さんのコラム、長いんです。
宮下: ス、スイマセン。
編集長: どうします、このあと。「タランティーノ作品の特徴」も書くんですよね?
宮下: は、はい。
編集長: ここまでで4000字も書いて、「あの事件」についての話がないって、おかしくないっすか?
宮下: いやあの、「「アメリカの歴史」と「ハリウッドの歴史」両方に大きな影響を与えた「ある事件」について」ていう感じでどこかに入れ込もうかなと……。
編集長: そこだけ書いたら話は早いですよね。
宮下: でも、それだと背景とかがぜんぜん……。
編集長: 宮下さん、Webのライティングがまだわかってないようですね。ポイントだけわかりやすく書けば大丈夫です。「明日のライターゼミ」受講してましたよね?
宮下: は、はい。
編集長: それから、流れが単調になってるので、読者が飽きないような工夫をお願いします。
宮下: やってみます。
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(突然、スタッフふたりを引き連れて、白衣を着てズラを被ったマッドサイエンティスト風の男がラジオスタジオに入ってくる)
ウェイン: 誰だ、お前!
(謎の男、ラジオスタジオにあったホワイトボードに名前を書きはじめる)
スタッフA: すいません、これ、ラジオなんで、声に出していただかないと、
バン
(謎の男、いきなり拳銃を取り出し、スタッフAの胸を撃ち抜く)
ガース: ヒィーーーー!
謎の男: こんばんは。苦怨天 多乱手異能(くえんてん・たらんていのう)です。
スタッフB: なんかノリがとんねるず石橋貴明の昔のコントっぽくないか?
シュッ
(苦怨天の投げたナイフが、スタッフBの眉間に突き刺さる)
スタッフB: グヘッ!!
ウェイン: なんと! 今のは「バトル・ロワイヤル」ビートたけし!

ガース: 深作欣二オマージュ!
苦怨天: それでは、今から講義をはじめます。
ウェイン: この状況で講義って……。
ガース: 帰りたい……。
(苦怨天、左右の手にそれぞれ一丁ずつ銃を握り、ウェインとガースに銃口を向ける)
ウェイン: わかった、わかった、はじめてくれ。
苦怨天: 今日は「タランティーノ映画の特徴」についてお話します。
ガース: とりあえず、聞くよ。
(苦怨天、ホワイトボードにタランティーノ映画の特徴に関するキーワードを列挙する)

1.ストーリーテリング
2.リミックス
3.ダイアログ
4.キャスティング
5.バイオレンス
6.サウンドトラック
7.ジャンル
8.フェティシズム
9.アンチCG
10.サスペンス
11.リベンジ

ウェイン: たくさんあるな。
ガース: 「タランティーノ映画の特徴11項」か。
苦怨天: That’s right. ちゃんと話せば本一冊分になるので、今日はポイントだけ話します。まず、「ストーリーテリング」ですが、彼の初期作品では「時制の入れ替え」というのがよくおこなわれました。
ウェイン: 「レザボア・ドッグス」(1992年)と「パルプ・フィクション」(1994年)が顕著ですね。


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出典: IMDb


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出典: IMDb

苦怨天: Goooood! 時制を入れ替えることで、映画の核心部分を観客に先にばらしてしまう。
ウェイン: 倒叙法ですね。
ガース: だから「レザボア・ドッグス」では、”警察のスパイ”がだれかは観客はすでに知っているけど、登場人物たちは知らないという状況がうまれた。
苦怨天: Yes. 今回の映画では倒叙法を使わずに、同じ作劇上の効果を得ることができたんだ。なぜなら、アメリカ人ならだれでも知っている「あの事件」がベースにある以上、「観客はすでにこの先の出来事を知っているけれど、登場人物たちは知らない」という状況がうまれるからね。
ウェイン: このおっさん、大丈夫か? ネタバレするかもだぞ。
苦怨天: What?
(苦怨天、銃口をウェインに向ける)
ウェイン: わかった、続けてくれ。
苦怨天: 2番目は「リミックス」について。これはもともと音楽用語だけど、彼はこれを映画でやったんだ。古今東西の映画を引用し、自分なりに消化して編集しなおし、作品にしたんだ。
ガース: パクリじゃないんだ。
苦怨天: オマージュだ。
ウェイン: まぁ、本人がどの映画から引用したかを隠さないところはエライけども。
ガース: 今回の映画も、他の映画やテレビドラマからの引用がいっぱいある。
ウェイン: 正直、やりすぎだけどね。
苦怨天: Bullshit!
ウェイン: やっぱ、タランティーノは「サービス精神の人」なんだよ。観客を楽しませよう、飽きさせないようにしようと途中でいろんな要素を詰め込んじゃうんだな。
ガース: それで映画が長くなってダレたら本末転倒だけどね。
苦怨天: (中指を立てつつ)F**k you!
ウェイン: まぁ、そのへんも含めて楽しめるかどうかが、タランティーノを好きになるかどうかの分かれ道だな。
苦怨天: OK,next!  3つ目は「ダイアログ」だ。
ウェイン: よく、「ストーリーに関係ない会話」がタランティーノ脚本の特徴といわれるけど。
ガース: 宝石泥棒がマドンナの曲について話したり、ギャングがフランスのハンバーガーについて話したり。
ウェイン: 「デス・プルーフ in グラインドハウス」(2007年)なんて、ほぼ全編ムダ話。


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出典: IMDb
苦怨天: No no no no no no! 「ムダ話」ではなく、「リアルな会話」だよ。
ウェイン: てか、「ストーリーに関係ない会話」が特徴とかいうけど、今回の映画なんてそもそも「ストーリーがない」からね。
ガース: 確かに。そういう意味でも「デス・プルーフ」に似てるから、「デス・プルーフ」好きは今回の映画も好きなんじゃない。
ウェイン: でもさぁ、ヤツもだんだん上手くなっててさ、「イングロリアス・バスターズ」は、一見ムダな会話がちゃんと意味を持つ伏線になってるんだよね。
ガース: いま観返すと、「ジャッキー・ブラウン」(1997年)なんて、普通に「いい映画」だったりするし。


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出典: IMDb
苦怨天: Thank you.
ガース: ん? 今、“Thank you.”っていった?
苦怨天: Next! 4つ目は「キャスティング」について。
ウェイン: これもよくいわれるのは「往年のスター復活」だよね。
ガース: 「パルプ・フィクション」のトラボルタ。


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出典: IMDb
ウェイン: 行き詰ってたブルース・ウィリスも救われた。


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出典: IMDb
ガース: 「ジャッキー・ブラウン」のパム・グリアとロバート・フォスター。


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出典: IMDb
ウェイン: 「キル・ビル」のデビッド・キャラダイン。


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出典: IMDb
ガース: 今回の作品では、残念ながらバート・レイノルズはギリギリ間に合わなかったけど、ルーク・ペリーは間に合った。


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出典: IMDb
ウェイン: 撮影後すぐに亡くなったのには驚いたけど。
ガース: ルーク・ペリーといえば、「ビバリーヒルズ高校白書/青春白書」(1990年-2000年)のディランだよね。


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出典: IMDb
ウェイン: これの元ネタね。


https://www.cinemacafe.net/imgs/thumb_h1/25393.jpg
出典: cinemacafe.net
苦怨天: Anyway. オレは過去のスターを復活させようとしてるんじゃなくて、「適材適所」で配役してるだけなんだ。売れてるスターだけを使うなんて、バカげてるからね。
ガース: 今、「オレ」っていったよね。
苦怨天: 次は「バイオレンス」
ガース: タランティーノといえば「暴力描写」とよくいわれるけど。
ウェイン: まぁ「マカロニ・ウェスタン」の影響が強いから、必ず血みどろになるしね。
苦怨天: でもさ。世間でいわれるほど人は死んでないんだよ。ほかのアクション映画なんかのほうが、いっぱい人は死んでるよ。
ウェイン: 多分、北野武と同じように、殺し方に工夫があるから印象に残るんだね。
苦怨天: 確かにな。今回の映画でも……。
ガース: ちょっと待ったー!
ウェイン: その先はネタバレー!
苦怨天: 6番目は「サウンドトラック」
ウェイン: これさ、「映画音楽の作曲家よりオレのほうがセンスあるから曲は自分で選曲してる」ってホントなの?
苦怨天: モリコーネは別だけどね。
ウェイン: ああ「ヘイトフル・エイト」(2015年)は、エンニオ・モリコーネか。

ガース: セルジオ・レオーネ作品の楽曲もあるしねー。モリコーネは最高だよ。
ウェイン: そういや今回の映画、カヴァー曲多くない?
ガース: そういえば、「California Dreamin’」はママス&パパス版じゃなかったし、

「You Keep Me Hangin’ On」もシュープリームスじゃなかったね。

苦怨天: 自分が若い頃聴いた曲でいいと思ったものを使うから、オリジナルとかカヴァーとかは関係ないよ。
ウェイン: いかにもタランティーノ的な発想だよね。
ガース: まぁタランティーノ映画そのものがカヴァーでありサンプリングだからね。
ウェイン: ポストモダンだな。
ガース: お前、それ意味わかって使ってる?
苦怨天: 7番目は「ジャンル」だ。ここは話すと長くなるからカット。
ウェイン: まぁタランティーノのジャンル映画への偏愛は相当だからね。「犯罪映画」「アクション映画」「西部劇」だけで何時間でも喋れる。
ガース: 今回の映画は、強いてジャンル分けするなら「コメディ」であり、「バックステージもの」であり、「バディ・ムービー」でもある。
ウェイン: ブラピ扮するクリフが「スパーン映画牧場」に乗り込むところなんかは、完全に「西部劇」だな。
苦怨天: 8番目は「フェティシズム」
ガース: 出た! タラちゃんの「足フェチ」は有名だから。
ウェイン: 歴史をさかのぼれば、「パルプ・フィクション」で、ギャングのボスの愛人(ユマ・サーマン)に足マッサージをしたチンピラが、ボスに半殺しにされるエピソードがあって。
ガース: ヴィンセント(ジョン・トラボルタ)とジュールズ(サミュエル・L・ジャクソン)がその一件について立ち話してたね。
ウェイン: 「キル・ビル」でも長期入院で歩けなくなったブライド(ユマ・サーマン)が足指を動かすシーンは足のドアップだし。


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出典: IMDb

ガース: 「デス・プルーフ」では交通事故で足が引きちぎれて窓からぶっ飛び、「イングロリアス・バスターズ」では銃弾を受けた血まみれの足の傷口に指を突っ込んでた。
ウェイン: タランティーノって、ちょっとした変態だよな。
苦怨天: オレにとって、女の足はpussyと同じなんだよ。
ガース: あれ、なんか開き直ってない?
ウェイン: この映画でも、映画館で椅子の上に足をのせて汚れた足裏を見せるシーンがあるし、ヒッチハイクでクリフ(ブラピ)の車に乗ったヒッピーは生足全開だった。


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出典: IMDb
ガース: 彼女は「腋毛」全開だったな。


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出典: front-row
ウェイン: 腋毛、今ブームだから。


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出典: excite
ガース: 勝手にブームにするな!
ウェイン: そういえば、「マッドマックス 怒りのデス・ロード」(2015年)で、監督のジョージ・ミラーがシャーリーズ・セロンに「役作りのために腋毛を生やしてくれないか?」って頼んだら、「絶対イヤ」っていわれたらしいよ。
ガース: そうなんだ。
ウェイン: ちなみに、あのヒッピーの子(マーガレット・クアリー)、実のお母さんがアンディ・マクダウェルなんだよね。


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出典: IMDb
ガース: マジで! アンディ・マクダウェルはNice Babeだよな!
ウェイン: (腰を浮かせて)シュイーン!ってなるな!
苦怨天: お前ら、次いっていいか。
ウ&ガース: どうぞ。
苦怨天: 「アンチCG」な。
ウェイン: CG嫌いも有名だな。今回の映画でも、1969年のハリウッドの街並みを再現するのに、CG使わずに道路封鎖して昔の看板とか車用意して撮影したらしい。
ガース: すげー。CG使ったら簡単なのにな。
ウェイン: カーチェイスなんかも、全部スタントマンがホントに運転してるからね。
ガース: 「デス・プルーフ」はすごかった。だから今回の映画でも感じたけど、スタントマンはリスペクトしてるよね。
ウェイン: そういや「デス・プルーフ」ではラストでゾーイ・ベルがカート・ラッセルをボコボコにするけど、今回の映画では夫婦役だった。
ガース: あのトリビアには笑った。
ウェイン: んでもってやっぱさぁ、タランティーノは今まで自分が観てきた過去の映画全部をリスペクトしてるんじゃない? 「ヘイトフル・エイト」でもウルトラ・パナビジョンみたいな超大画面(縦横比1: 2.76)で公開したり。
ガース: デジタルを拒否して、いまだにフィルムで撮影してるしね。
ウェイン: もうフィルムで撮ってるのって、スピルバーグとクリストファー・ノーランぐらいじゃね?
ガース: タランティーノは「反時代の人」だね。
ウェイン: だから、時流に乗らないという意味では、リック(ディカプリオ)やクリフ(ブラピ)と同じなんだよ。
ガース: 次の映画撮ったら監督を引退するっていうのも、今の映画界がイヤになったからかもね。
苦怨天: いや、完璧なフィルモグラフィーを残したいんだよ。落ち目になる前にね。
ウェイン: 次は「サスペンス」か。タランティーノって、脚本家としての評価が高いけど、画面構成で緊迫した場面を演出できる優れた演出家でもあるんだよね。
ガース: クリフ(ブラピ)がスパーン映画牧場で歩くシーンなんて、しびれたなぁ!
ウェイン: あのシーンに匹敵するのって、「イングロリアス・バスターズ」の冒頭、ユダヤ人をかくまう一家の家にナチスのSS(クリストフ・ヴァルツ)が乗り込んで尋問するシーンとか、地下の酒場でナチスの将校とスパイたちが鉢合わせするシーンあたりだよね。
苦怨天: 今回の映画におけるサスペンスの構図ってのは、こうなんだ。主人公3人はそれぞれ異なるシーンのなかに生きていて、ドラマ上では3人がほぼ独立してお互いにからみあわない。しかし(ある意味ノンキで楽しげな)3人のスケッチ風エピソードが平行に描かれる裏では、「死へのカウントダウン」が進行しているっていうサスペンスなんだよね。「あの事件」を知ってる観客は、この先どうなるかハラハラするという。
ウェイン: あー、これネタバレしそうじゃね?
苦怨天: 寸止めだ。
ガース: いや、ちょっと漏れた気がする。
苦怨天: 最後の項目が「リベンジ」
ウェイン: タランティーノ映画は復讐劇多いよね。
ガース: 「キル・ビル」は、まさにそれ。タランティーノは実は「愛と正義の人」なのよ。ここは声を大にしていいたい。
苦怨天: 「ジャンゴ」は黒人の白人に対する復讐劇だし、「イングロリアス・バスターズ」はユダヤ人のナチスに対する復讐劇。後者はヒトラーを、
ウェイン: あーあー。(発言の妨害)
苦怨天: 殺害するという、
ガース: あーあー。(発言の妨害)
苦怨天: 歴史の、
ウェイン&ガース:あーあー(発言の妨害)
苦怨天: うるさいな!
とにかく、オレがいいたいことはこういうことだ。映画とは虚構なんだ。真実を描けばいいってもんじゃない。そして虚構でこそ表現しうることがこの世にはあるんだ! 失われてしまった世界を描くことで、失われたものの価値を表現し、実際に失われてしまったものの悲劇性を強調することができるんだ。それこそがアートってもんだろ! それから、バカな記者が主演女優のセリフが少ないことに文句を言っていたが、F**k Youだぜ! Asshole! Motion PictureてのはもともとSilentだったんだ。セリフに頼らず動きだけで喜びや美しさを表現できたからこそ、演劇とは違う芸術表現として成立したんだ。サイレント時代からの監督たちをオレは尊敬している。チャップリン、ヒッチコック、ホークス、ルビッチ、ムルナウたちをね! セリフの面白さで有名になったこのオレが、それを封印して主演女優である彼女の喜びや美しさの表現に挑戦し、この映画ではそれに成功したと思っているよ。
(突然、銃を持った筆者がドアから乱入)
宮下: お前のいいたいことはよくわかった。だがこれまでだ。
苦怨天: なんだお前は!
(宮下、銃口を苦怨天に向けながら)
宮下: このコラムの筆者だ! 「ネタバレなし」コラムなのに、お前はしゃべりすぎた! これ以上しゃべると完全にネタバレする。
(苦怨天、銃口を宮下に向けながら)
苦怨天: 知るか! そんなもの、お前の都合じゃねえか!
宮下: うるせえ! 調子に乗るな!
(そこへ編集長も乱入)
編集長: 調子に乗ってるのはあんただろ! 1万字も書いてシャロン・テートもチャールズ・マンソンもこのコラムには出てこないじゃないか!! 
宮下: 黙れ!! 
バン
編集長: ぐほっ。
(宮下に撃たれた編集長、血しぶきをあげて倒れる)
苦怨天: ああっ!
(目くばせしあったウェインとガース、油断した苦怨天に体当たり。倒れる苦怨天。ウェイン、二丁ある拳銃のうちのひとつを苦怨天から奪う)
苦怨天: 銃を返せ!
(苦怨天、銃口をウェインに向ける)
宮下: Freeze! 動くと撃つぞ!
(後ずさりするガース)
バァン
ガース: ギャーーーーーーーーー!
(宮下に腹を撃たれ、血まみれになるガース)
ウェイン: ガース! テメエ、よくもガースを!
(ウェインは銃口を宮下に、宮下は銃口を苦怨天に、苦怨天は銃口をウェインに向ける。いわゆる「メキシカン・スタンドオフ」状態)
苦怨天: Damn, motherf**ker!
ウェイン: Revenge for Garth!
宮下: Shut the f**k up!
バン バ バン
(3人とも銃弾を浴びて倒れる)
(まだ生きていたガース、血まみれのまま少し身体を起こす)
ガース: ラ、ライターまで死んだらどうすんだよこのあと。
宮下: し、しょうがない、オレの負けだ。結局オレは、ネタバレせずにこの映画の素晴らしさ、ヒロインの喜び、エンディングの美しさを表現することができなかったんだ……。
バン バ バン
(まだ死んでなかったウェイン、宮下を撃つ。宮下、ウェインとガースを撃つ)
(全員死亡)

※筆者註 このコラムはフィクションであり、登場人物はすべて架空の人物です。
特に、文中にある「編集長」は、「街角のクリエイティブ」の編集長 西島知宏氏とはなんの関係もないことを明記しておきます。


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[イラスト]ダニエル

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