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エルトン・ジョンの人生が教えてくれる、親として大切なこと「ロケットマン」

金子ゆうき 金子ゆうき


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総売り上げ枚数3億以上、世界でもっとも売れたソロ・ミュージシャンのひとり。
エルトン・ジョン。

正直、ピンときていませんでした。

彼のイメージは、奇抜なメガネの陽気なベテラン・ミュージシャン。『ユア・ソング(僕の歌は君の歌)』を耳にしたことはあっても、それが誰の曲かまでは分からない。


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出典:IMDb エルトン・ジョンといえばこのイメージ。

そんな僕が見て、聴いて、泣いて、調べた「ロケットマン」。

エルトン・ジョン自身が製作総指揮をとり、自らの半生を赤裸々に描いています。
伝記映画であり、音楽映画であり、恋愛映画であり、そしてすばらしい家族映画でした。

個人的には家族映画としての側面に最も惹かれ、親として非常に考えさせられました。

それは追々書きます。

例のごとくネタバレ全開でお届けします。気になる方は鑑賞後に読んでください。
なるべく音の良い劇場でご覧になった方が楽しめると思います。

そうそう、主演のタロン・エガートンについては公式サイトの表記に合わせて「エガートン」にしています。読みの音に近いタロン・エジャトンの表記が増えてきているので、次作以降では公式でも表記が変わるかもしれません。

それでは、どうぞ。

「ロケットマン」は構想15年

制作の発端はエルトン・ジョン自身。

映画のラストにも出てくる、パートナーのデビッド・ファーニッシュ(映画監督、プロデューサー)と共に自身の半生を映画化することを計画。脚本制作に取りかかりました。2004年ころなので、完成まで実に15年以上かかることになります。

脚本はリー・ホール。2001年公開の「リトル・ダンサー」等を手がけています。「リトル・ダンサー」、良い作品なんでぜひ見てください。


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出典:IMDb

エルトンは「リトル・ダンサー」に感銘をうけて自ら企画・楽曲制作を手がけてミュージカル版「ビリー・エリオット ミュージカルライブ/リトル・ダンサー」を製作しました。その関連でリー・ホールに脚本を頼んだんでしょう。

ちなみに「リトル・ダンサー」の主演は、「ロケットマン」でバーニー・トーピンを演じたジェイミー・ベル。あどけない少年が、立派になって……。


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    出典:IMDb 「リトル・ダンサー」のジェイミー。

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    出典:IMDb 「ロケットマン」のジェイミー。

2009年に脚本は完成しましたが、本格的な始動には至りません。

転機となったのが、2017年公開「キングスマン:ゴールデン・サークル」。エルトンは本人役で出演。「土曜の夜は僕の生きがい」の替え歌や、アクションまで披露しました。


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出典:IMDb 「キングスマン」のタロンはヤンチャな感じでしたよね。

「キングスマン:ゴールデン・サークル」の監督、マシュー・ボーンに脚本を見せたところ、反応が良く進行することに。マシューは自ら監督したかったようですが、スケジュールの関係で断念。製作としての参加となりました。

マシューが推薦したのが、デクスター・フレッチャー監督タロン・エガートンです。

デクスター・フレッチャーは1976年、9歳でミュージカル映画「ダウンタウン物語」に出演。監督としての初作品は2011年「ワイルド・ビル」。2014年「サンシャイン/歌声が響く街」「イーグル・ジャンプ」(日本未公開。DVDや配信で見られます)、2018年「ボヘミアン・ラプソディ」と手がけてきました。


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出典:IMDb 中央が監督。

「ボヘミアン・ラプソディ」ではブライアン・シンガー降板後に残りの撮影とポスト・プロダクションを手がけた最終監督で、クレジット上は製作総指揮です。

「ワイルド・ビル」は見れていませんが、「サンシャイン/歌声が響く街」はザ・プロクレイマーズという双子デュオの楽曲をフィーチャーしたミュージカルの映画版。男女に分かれてのダンスシーンなど「ロケットマン」に通じるところもある良作です。


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出典:IMDb

「イーグル・ジャンプ」はタロン・エガートンとヒュー・ジャックマンが主演。イギリス史上初のスキージャンプオリンピック代表選手であるエディ・エドワーズの半生を描いた伝記映画。タロンがエディ・エドワーズを演じました。


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出典:IMDb 凸凹師弟モノが好きなら「イーグル・ジャンプ」は必見。

■伝記映画
■ミュージカル
■特定アーティストの楽曲をフィーチャー
■タロン・エガートン主演

「ロケットマン」に関わるすべての要素を経験してきたのがデクスター・フレッチャーという人で、マシュー・ボーンが推薦するのもうなずけます。

主演のタロン・エガートンは、もっとも勢いのある若手俳優のひとりでしょう。
10月には主演作「フッド:ザ・ビギニング」の公開も控えています。


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出典:IMDb 中央がタロン。デクスター・フレッチャー、ヒュー・ジャックマンと。

イングランド出身のウェールズ人で29歳。アラン・リックマンやアンソニー・ホプキンスらを排出したロンドンの名門・王立演劇学校を卒業。

2011年デビュー、2015年「キングスマン」で広く知られるように。2017年の3DCGアニメ「SING/シング」でゴリラのジョニーを演じ、エルトンの『アイム・スティル・スタンディング』を披露。観客の度肝を抜きます。


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出典:IMDb 「SING/シング」すんごい好きなんですよね……。

タロンとエルトンのつながりはもっと前にあって、王立演劇学校の入学試験で『ユア・ソング(僕の歌は君の歌)』を歌ったそうなんです。エルトンの曲で演劇への道を拓いたタロンがエルトン本人を演じて、自ら歌う。

なんと運命的!

「ロケットマン」ではエルトン・ジョン本人の音源・歌声はほとんど流れません。劇中の歌唱はタロンと他キャストによるもの。

ほとんど、と書いたのは1曲だけ使われているからです。

エンドロールで流れる『 (アイム・ゴナ)ラヴ・ミー・アゲイン』エルトン・ジョン作曲、バーニー・トーピン作詞の新曲でエルトンとタロンがデュエットしています。

アーティストの伝記映画でありながら本人音源が流れない。これは「ボヘミアン・ラプソディ」と大きく異なります。「ボヘミアン・ラプソディ」はフレディ・マーキュリーの音源がふんだんに使われていましたからね。


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出典:IMDb エルトンとフレディには、ピアノという共通点も。

「ボヘミアン・ラプソディ」が出たところで、両作品の比較を交えて「ロケットマン」の映画的な特徴を考えていきます。

「ロケットマン」は回想型ミュージカル

エルトン・ジョンとフレディ・マーキュリー(そして、クイーン)。輝きと苦しみの中で、まばゆい音楽を生みだしたアーティストの半生を描いたという点で「ロケットマン」と「ボヘミアン・ラプソディ」は似ているといえます。

表現としてまったく違うのは「ロケットマン」はミュージカルであるということ。歌って踊る。劇中楽曲は発表年代問わず物語に合わせて選曲されました。

冒頭の『アイ・ウォント・ラヴ』。「親父も歌うんかい! おばあちゃんもかい!」と思ったんですが、それぞれ求める愛があって、それが今の家族では実現しないことを表現しているんですよね。

『アイ・ウォント・ラヴ』の発表は2001年。エルトンが治療施設に入ったのが1990年頃なので、実際は映画内の時間よりはるか後に作られているんです。

物語は薬物治療中に過去を回想する形で、現実と虚構が入り混じりながら展開されていきます。

エルトン・ジョンの物語がミュージカルで語られるのは理にかなっていると思うんです。世界がそう見えて、聴こえているんじゃないでしょうか

彼は、音楽の天才です。音楽に選ばれた存在です。耳にしたメロディを再現できる。『ユア・ソング(僕の歌は君の歌)』からも分かるように、歌詞のイメージからすぐに曲ができる。世界中で歌い継がれるような名曲が、です。

こんな動画がありました。

出典:YouTube

テレビ番組でオーブンの説明書に即興で曲を付けてほしいというむちゃぶり。見事に曲をつけてしまいます。すごい。

ちなみに、むちゃぶりをしたリチャード・E・グラントは俳優。Wikipediaでは「背が高く、コスチューム・プレイが非常に似合う役者である」と紹介されています。なんじゃそりゃ

エルトンの世界にはメロディが溢れている。だから、ミュージカル。単純だけど、素直にいいじゃないですか。

現実と虚構が交錯しつつ、クリエイターが心のうちを語るように進む映画で思い当たるのは、

2010年公開、ロブ・マーシャル監督の「NINE」
1980年公開、ボブ・フォッシー監督の「オール・ザット・ジャズ」

そして、2作品の大元である
1965年公開、フェデリコ・フェリーニ監督の「8 1/2(はっか にぶんのいち)」

「8 1/2」は映画監督のグイドが新作映画制作に苦しむ姿を描いていて、現実と虚構が交錯するのが特徴のようです。

「ようです」と書きました。「8 1/2」見れておりませんすみません!


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出典:IMDb 9本目の作品が作れずに苦悩するから「8 1/2」。

「NINE」は「8 1/2」をもとにしたブロードウェイ・ミュージカルの映画版。グイドが女性に魅了・翻弄されつつ作品づくりに苦悩する姿が豪華絢爛なミュージカルシーンと共に描かれていて見ごたえ抜群。特にペネロペ・クルスがエロ……、やめておきましょう。


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出典:IMDb ペネロペ・クル……

「ロケットマン」とはラストで子供時代の自分と……という点でも共通点がありますね。

「オール・ザット・ジャズ」は振付師、映画監督として成功したボブ・フォッシーが自分の死期を悟り、自らの半生を振りかえるように作った作品。


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出典:IMDb

監督自身をモデルにした主人公が作品を作る過程で起こる出来事や過去が走馬灯のように展開されます。奥さんと娘がミュージカルを披露してくれるシーンの幸福感たるや。あんなん泣くに決まってます。

「NINE」同様、人間的にダメな部分もかなり描かれます。自分の女遊びが原因で愛人に言われたひどい言葉も「そのセリフいいね! 次の作品で使おう」なんて言ったりするんです。

「オール・ザット・ジャズ」では主人公が毎朝鏡に向かって、目薬をさし、覚せい剤を飲んで「ショータイムだ!」と言うのがお決まりのようにくりかえされます。人生はショーであり、自分は主役。みんなを楽しませるための役に入るための儀式であるかのように。


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出典:IMDb

「ロケットマン」でも同じようなシーンがありますよね。鏡の前で思いつめていた直後、メガネをかけてニカッと笑って別人のように。観客が望むエルトン・ジョンの姿になるように。それを自分に言い聞かせるように。


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出典:IMDb エルトンにとってメガネは本当の自分を隠すための仮面。

「NINE」「オール・ザット・ジャズ」共に、子供時代の出来事がその後の人生に大きな影響を与えていることを示唆するつくりになっているのも「ロケットマン」に共通しています。


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出典:IMDb 幻想の中で子どもの頃の自分に出会うことに。

えー、気づけば映画が始まらないまま4000字以上きてしまいました。

いまさら、あらすじをというわけにもいきません。

治療中のエルトンの衣装。「心の壁」が繋がっているように、衣装がなくなるほど素直になっていく。この演出も、自慢げに書くことじゃありません。見れば分かりますね

エルトン・「ジョン」は「ジョン」・レノンからとったというのは事実とは異なるなんてトリビアにもならないこと書いても仕方ありません。エルトン・ジョンとジョン・レノンは親交があったので、ジョン・レノンへの親愛の情から取り入れたのかもしれません。

ダラダラと書いてしまいそうなので、ここからは「ロケットマン」を彩った曲に絞り、魅力を書いていきたいと思います。

「ロケットマン」を彩る名曲たち

土曜の夜は僕の生きがい

母の恋人が持っていた『エルヴィス・プレスリー登場!』(1956年のデビュー・アルバム)との出会いでロックに傾倒しながら成長したことをワンカット(風)で表現「ラ・ラ・ランド」冒頭の『アナザー・デイ・オブ・サン』を彷彿とさせる、これぞミュージカル! なたのしさが詰まっていました。


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出典:IMDb

人生の壁

バーニー・トーピンとの初共作として描かれる『人生の壁』。初対面時のタロンの「目」がすばらしかったですね。一目惚れしたことが伝わってきました。バーで歌うなよといわれた『ラレード通り』をたのしそうに歌うというのも2人の気が合うことをあらわす、うまい演出でした。


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出典:IMDb

エルトンがゲイであることを明かした後の屋上。バーニーがエルトンの愛を受け入れられないという決定的なすれ違いが描かれますが、そこでも『人生の壁』が流れました。

「彼は僕の兄弟なんだ」という詩が繰り返される歌ですから、恋人ではなくとも強い絆で結ばれた関係になるということを暗示していたんでしょう。

ユア・ソング(僕の歌は君の歌)

バーニーが何気なく書いた詩にさらりとメロディをつける。歴史に残る名曲の誕生シーンとしても印象深いですが、恋愛描写のピークでもあります。

成就することのない片思いの相手が書いた詞を「僕の歌は君の歌」と歌うわけですから、とても切ない。

で、またバーニーがいい顔するんですよね。ズルい! ズルいぞ、バーニー!


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出典:IMDb

「リトル・ダンサー」でもそうですが、ジェイミー・ベルはゲイに好かれる役がハマります。キレイな顔ですからねえ。

2人の間に絆が存在するのが伝わる視線のやり取り。タロンの歌声とも相まってとにかく甘いシーンでした。

クロコダイル・ロック

一夜にしてスーパースターの扉が開くことになるアメリカでの初ライブ。会場となったトルバドールは西ハリウッドに位置する1957年にオープンした老舗

ビビッてトイレにこもってからの熱狂。自分に自信が持てないレジナルド・ドワイトがエルトン・ジョンへと変貌した瞬間として見事な流れだと思います。


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出典:IMDb

曲の盛り上がりとシンクロするようにエルトンと観客が浮かび上がる。すばらしい! 熱狂するライブ会場で実際に体感する魔法のような瞬間を視覚的に表現できていました。


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出典:IMDb ライブいきたい!! と思わせてくれる完璧な演出。

ドキドキしながら初めていった地元のライブハウス。楽しみで楽しみで仕方なかったメタル・バンドのライブ。熱と埃と音にまみれて、すべてを忘れたあの場所でたしかに味わった感覚を思い起こさせてくれました。

ロケット・マン

途方もない成功と引きかえに、孤独と、本当の自分との乖離も激しくなる。愛してくれると思ったジョン・リードはビジネスのために自分を利用しているようにしか思えなくなった。

ジョン・リードはクイーンのマネージャーもやっていた人ですね。「ボヘミアン・ラプソディ」でエルトン・ジョンのマネージャーもやっていると紹介されていました。


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出典:IMDb 「ボヘミアン・ラプソディ」でのジョン・リード。

自宅でのパーティ中、自暴自棄になったエルトンは多量の薬物とアルコールを飲んでプールに飛び込む。朦朧とする意識の中で出会ったのは少年時代のレジナルド・ドワイト。流れているのは『ロケット・マン』。


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出典:IMDb

地上を恋しく思う宇宙飛行士の歌で「遠い空でヒューズが切れて、たった独りで燃え尽きていく」という歌詞が、誰からも愛されないと思っている心境と重なるようです。

この歌詞にはベースとなる小説が存在します。

SF作家、レイ・ブラッドベリが1951年に刊行した短編集『刺青の男』。全身に彫られた刺青が動き出して18の物語を演ずる、というものでそのうちの一遍が『ロケット・マン』です。


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出典:amazon.co.jp

とりつかれたように仕事にいく宇宙飛行士の父への憧れと、家族をかえりみないことへの寂しさが交錯する息子の視点で描かれています。ラストの切なさもあって、複雑な読後感を与えてくれます。この物語に触発されてバーニー・トーピンは『ロケット・マン』の歌詞を書いたといいます。

小説の内容からすると『ロケット・マン』は父との関係がうまくいかない少年の歌ともいえます。

物語の序盤、楽譜に向かいオーケストラを夢想するレジーの頭の中で流れていたのが『ロケット・マン』でしたが、あの場面で曲がかかることには意味があったんですね。


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出典:IMDb

アイム・スティル・スタンディング

すべてを捨て、治療を決意したエルトン。オープニングで派手な衣装を着ていたのはライブを投げだしたからだった。過去を乗り越え、レジー少年を抱きしめ自分を愛すことができました。バーニーから渡された詞は『アイム・スティル・スタンディング』。

僕は今もこの足で立っている

この曲がかかる頃にはおいおいと泣いていました。サントラ聴きながら書いているこの瞬間もちょっと泣きそうです。個人的に「ロケットマン」のベストトラックです。

「SING/シング」のゴリラ・ジョニーの物語ともかぶるんですよね。ジョニーも父親との関係に苦しんでいました

「ロケットマン」では外に飛び出してから映像が荒くなりましたが、これは1983年当時のMVをタロン・エガートンで再現しているから。オリジナル版をご紹介します。ご覧になった方なら、完コピだったということが分かるはず。

出典:YouTube

この曲で1983年のエルトン・ジョンとタロン・エガートンが交錯します。

そして「現在の」エルトンとタロンが歌う『(アイム・ゴナ)ラヴ・ミー・アゲイン』で物語は幕を閉じます。

「愛がほしい」と叫んだ少年の旅は「もう一度ぼくは自分を好きになるんだ」という言葉にたどりつきました

さて、一部の曲だけ紹介してきましたが、まだまだ足りない! 

ジョン・リードと歌うシーンの派手な演出は、バーニーとの質素ながら心が通い合っていることとの対比になっているとか。


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出典:IMDb

原曲のメロディを活かしつつ、物語に合わせた見事な編曲を施したジャイルズ・マーティンは「5人目のビートルズ」といわれたジョージ・マーティンの息子

『ユア・ソング(僕の歌は君の歌)』でエルトンが注目を集めた1970年はビートルズが解散した年でもあり、因縁めいたものがあるよね、とか。

きりがないので、やめておきます。
何しろいちばん書きたいことを書いていません。

最後に「家族の物語」として僕が感じたことを書きます。

エルトン・ジョンが選べなかったことを、選びなおすために

「ロケットマン」のことを考えるなかで浮かんできたのが『ぼくたちが選べなかったことを、選びなおすために。』(2019年・ポプラ社)です。


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出典:amazon.co.jp

写真家・幡野広志さんが、がんで余命宣告をうけたことをきっかけに、自らが取材したがん患者や、患者の関係者たちとの対話をとおして見えたことがまとめらています。

その中で、生きにくさを感じる人の多くは「家族」「親」との関係に問題があることが多いと、幡野さんは書かれています。

彼らはみんな、親の死を願っているのではない。親という「重し」がなくなった先の自由を、求めているのだ。
『ぼくたちが選べなかったことを、選びなおすために。』より引用

家族とは、「与えられるもの」ではなく、「選ぶもの」なのだ。もしも改善の余地がない関係だったとしたら、たとえ親子であっても、その関係を断ち切ってもかまわないのだ。
『ぼくたちが選べなかったことを、選びなおすために。』より引用

家族、バーニー、ジョンとの対話を終え、最後に少年時代の自分を抱きしめた、エルトン。僕はそれを見ながら、おいおい泣いていましたが「良かったね」という気持ちだけじゃなく「悲しみ」がありました。むしろ、悲しみが強かったかもしれない。

エルトンは両親を受け入れるのではなく、断ち切ったんだと思うんです。両親の愛をずっと求めてきたのに叶わなかった。満足して自分を受け入れ、愛したのではなく、そうするしかなかったんです。

サインを求められて「for Dad」と書いたのに、訂正させられる。自ら消さないといけなかったんです。ゲイを母に告白したら「あなたは誰からも愛されないんだと自覚して」と言われてしまう。家族の行動や言葉は「呪い」になるんですよね。

カウンセリングの現場では、トラウマ(こころの傷)の原因となった過去の出来事をさかのぼったうえで、「赦すこと」を求められたりするのだそうだ。自分を虐待した親を赦す。自分をいじめた同級生を赦す。自分を助けてくれなかった誰かを赦す。

でも、それは無理な相談だと、僕は思う。

「ぼくたちが選べなかったことを、選びなおすために。」より引用

「赦す」ことを求めつづけたら、エルトンは立ち直れなかったと思います立ち直るためには、断ち切るしかなかった

「ボヘミアン・ラプソディ」でのフレディと「ロケットマン」のエルトンとの決定的な違いは「両親に愛されていたか」だと思います。

性的アイデンティティに苦しみながらも、愛してくれる大切なひとに出会えた点では同じですが、フレディは「両親の愛」に気づき、家に帰り受け入れてもらえました。

エルトンはそうではない。少なくとも本人の中、この映画の中では両親に愛されることなく、受け入れられることはありませんでした。

2015年のTechinsightJapanの記事によると、エルトンは「父には、愛していると言われたことがない。抱きしめてもらえなかったし、演奏を観てもらったこともないんだ。」と語り、母とはデビッド・ファーニッシュを罵られたことから長いあいだ口をきいていないということです。

また、2019年5月末にイギリスの一般紙「オブザーバー」によせたコラムでは、2人の息子が大人になった時に自分が他界している可能性を考え、生きざまを残しておきたいという想いが「ロケットマン」を完成させるモチベーションになったといいます。

「ロケットマン」はエルトン・ジョンが選べなかった家族を断ち切り、自分で選んだ家族のために作った映画なんです。


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出典:IMDb パートナー、デビッドと。ちなみに、息子の後見人はレディ・ガガ

僕自身が親である立場から見ると、親の愛を感じられないと、子どもはこうなる可能性があると、見せつけられたようです。

自分と子どもたちの間に起こったっておかしくない。

とても恐くなりました

愛情を伝える。子どもが自己を肯定し自尊心を持てるようにする。じゃあ、どうすればいいんですか? 結果論でしかないじゃないですか。親だって悩みながら進むしかありません。

ですが、それは意外と簡単なのかも、とも思っています。

エルトンがレジーにした、やさしいハグ

きっと、エルトン本人も息子たちをハグをしていることでしょう。

僕もそうしたいと思います。
君は大丈夫。ちゃんと愛されているよ、と伝えるために。

「ロケットマン」はおかしくもあり、悲しくもあり、何より自分を偽らずに欲しいものを選ぶことの大切さを教えてくれました。

ほとんど知らなかったエルトン・ジョンに「生きていてくれてありがとう」と伝えたい気持ちでいっぱいです。

最後の最後に。

デクスター・フレッチャー監督。次は「カルチャー・クラブ」のシンガーであるボーイ・ジョージの伝記映画を手がけると伝えられています。ゲイのミュージシャン3部作になる予感もしますね。


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出典:Wikipedia

どんな作品になるか楽しみにしつつ、今はまた「ロケットマン」のサントラを再生することにします。

<参考文献>
レコード・コレクターズ増刊 エルトン・ジョン アルティメット・ガイド(2019年・ミュージック・マガジン)


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[イラスト]ダニエル

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