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「ローガン・ラッキー」人生に負け続けた奴らが挑む一世一代の大勝負

加藤広大 加藤広大


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「映画館で映画を観ている」感覚を、取り戻せるという幸運

地下まで続く陥没穴、現金の輸送管(気送管)、地下金庫に集まる莫大な現金。なるほど、穴に潜入して輸送管をちゃちゃっと弄って、行き着く先の地下金庫から金をくすねりゃいい。つまり、計画自体はちょっと頭を捻れば誰でも思いつくような、子どものいたずらみたいなものである。だが、これは発想が貧困である、脚本が稚拙であるということでは全く無い。ドジで間抜けなローガン一味が幸運に恵まれたならば、なんとかやり遂げられるレベルとして、実に的確な設定である。

https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/M/MV5BNjU4Y2FlMjEtNTI5ZC00MmZlLTg4YTMtODc0NWQ3ZjRjMmEzXkEyXkFqcGdeQXVyNjk2MjI2NTY@._V1_.jpg出典:IMDb

さらに、仕事の手口や途中で起こるアクシデントの数々に、「それはねえだろ(笑)」「さすがにご都合主義的(笑)」と突っ込めるポイントは多々あるが、脚本や演出の不備だとは感じないし、ソダーバーグがわざとやっているのではないかとすら思えてくるのだから、やはり彼はダニエル・オーシャンのように、厄介な監督である。

なので本作の「犯罪素人が考えた現金強奪計画」という柱は、いくらでも突っ込めそうなジミーのプランによってガッチリと補強されている。さらに、この「素人仕事」は、「オーシャンズ」シリーズ恒例の、「実は裏でこうなっていました」的なネタバレシークエンスでの爽快感を増幅させてくれる。実は冒頭のシーンから意外とネタバレがあり、迂闊に話すことはできないのでこのくらいしか言えないのが心苦しいが、ぜひ、どなた様もネタバレ無しで観ていただいて、ラストの「まさにソダーバーグ」と拍手のひとつでも送りたくなる爽快感を味わって欲しい。

本作では、きらびやかな宝石なんて出てこない、シャンパンも抜かれない、名うての詐欺師も出てこないし、お色気シーンもない、恋愛要素だってない、明らかな悪役すらもいない。

だが、そんなものはこの映画にとって、ただの一つも必要ないと証明するかのように、そして、何が「ある」かではなく、何が「ない」かが重要なのだと言わんばかりにスティーブン・ソダーバーグは物語を完成させた。

本作は昨今の「まるでこれはパチンコの演出ではないか?」と思ってしまうほどの3Dやら4DX対応の過剰なまでの演出/アトラクション化やシリーズ物などのインフレするしかない作品に胃もたれしていた人にはちょうどよく、丁寧な作りと、変に力などは入っておらず、誤解を恐れずに言えば余裕すらも感じさせ、絶妙な抜け感で、誰しもが安心して楽しめる。

何より、そんな現状のなかで、「ローガン・ラッキー」は、1時間59分の間ずっと「今、自分は映画館で映画を観ている」といった、懐かしくも新鮮な感覚を観る者に与えてくれる。幸運なことである。

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