なぜ、「ローガン・ラッキー」は娯楽犯罪映画の最新作にして、既に定番のような風格なのか
その理由のひとつが、「オーシャンズ」シリーズに負けず劣らずなキャストの豪華さであるのは言うまでもない。「肉体美なら任せとけ」なチャニング・テイタムに加え、ジミーの弟であり、イラク戦争帰りの片腕バーテンダー、クライド・ローガンをアダム・ドライバーが演じる。今年は「沈黙‐サイレンス‐」で宣教師として日本に上陸したものの酷い目に遭ったり、「パターソン」でバスの運転手をしてみたり、さらには「スター・ウォーズ/最後のジェダイ」が控えていたりと、もう出演し過ぎて「あ、アダム・ドライバーだ」と、どんな役でもアダム・ドライバーが動いているように見えてきてしまいそうになるが、今回もしっかりと自己更新を果たし、役者としての新境地を開いている。
出典:IMDb
そしてローガン一家の紅一点、美容師として働く車好きの女子、メリー・ローガン役にはライリー・キーオ。「マッドマックス 怒りのデス・ロード」でワイブスの一人を演じたのは記憶に新しい。というか彼女はエルヴィス・プレスリーの孫娘であり、舞台となったウェストバージニアを擁するアパラチアはロックン・ロールの一つのルーツを形成した地域であるので、つまりこの件だけでも本作の設定にドンピシャで役満級のキャスティングである。子供っぽさの中に光る色気、無邪気ながらも自立しており知的であるなど、相反する面を併せ持った役柄を魅力的にこなしている。
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さらに、素人衆のなかで唯一のプロフェッショナルであり、銀行強盗の
また、ジョー・バングの兄弟であるサム・バング、フィッシュ・バングにはそれぞれブライアン・グリーソン、ジャック・エイドの若手二人が起用され、「馬鹿で間抜けであるが、憎めない二人組」を見事に演じている。この手の映画にはお約束のキャラクター設定ではあるが、本作のそれはかなりのレベルであり、スキルフルな俳優が多数出演しているなかでも、まったく埋もれず、物語に程よいスパイスを効かせてくれる。
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他にもヒラリー・スワンクからケイティ・ホームズ、セス・マクファーレンからまさかのドワイト・ヨーカムまで、まるで天丼とカツ丼と鰻丼を同時に食っているようなオールスター総力戦であるが、不思議と胃もたれすることはない。各々役にきっちりと収まり、主張せずとも存在感を放ち・・・と書くと「濃厚ながらもクドくなく、それでいて爽やか」みたいな、何も言っていないグルメレポーターのようだがその通りなのだから仕方がない。
しかし、豪華メンバーを揃えただけでは傑作には成り得ない。駄作になってしまった作品も数多存在する。脚本の良さ、劇伴の良さ、編集の良さ、以下数字は適当だが100も200もレイヤーが重なり作品という結果になる。周到に準備をし、慎重に実行し、綺麗に後始末をつけてこそ、良作は完成する。
今回、復帰を果たしたソダーバーグの元に集ったプロフェッショナルなスタッフ、言うなればソダーバーグズは、メジャースタジオを一切介さずに、すべてのクオリティ・クリエイティブコントロールを監督の下で行い、映画の準備と実行と後始末を、劇中でジミーがそうしたように、華麗にやってのけた。
ジミー・ローガンは今回の現金強奪計画にあたり、10のルールを設定するが、そのなかには、「計画を練れ」、「代替案を用意しろ」「欲張るな」、「引き際を見極めろ」といったことが書かれている。
おそらく、このルールはジミーのみならず、スティーブン・ソダーバーグが本作を制作するにあたって、自身に課したルールでもあるように思える。