もう最初のシーンから、ワインを語る編集長や、オシャレにコーヒーを淹れる元バリスタの先輩など、オシャレを鼻にかけたイタさがふんだんに盛り込まれています。奥田民生に憧れている主人公のコーロキもまた、そんなライフスタイル雑誌『マレ』の編集部の、異次元レベルのオシャレさに愕然としています。奥田民生が好きだなんて決して言える空気ではありません。奥田民生が好きだなんて恥ずかしい!! と俯いているのです。というか、奥田民生でそれなら、ミスチルになりたいボーイの自分はどうすればいいのか。なんなら奥田民生ってオシャレじゃないの? と、コーロキにすら敗北感を味わう自分がまたイタい。
そんなオシャレな会合の後、一人立ち食い蕎麦をすすりながらコーロキは、先ほど奥田民生が好きな自分を「恥ずかしい」と思ったことを撤回します。「奥田民生はオレの人生の指針!! ああなりたい!! 何ら恥じることはないぜ!!」とね。
この心の揺れ動きこそ、渋谷直角作品の醍醐味なのです。コーロキ・キュウジ(35)。くしくも自分と同い年。「民生のような編集者」を目指す彼もまた、おそらくだいぶイタいのだけれど、完全に自分と重なってしまいました。シンクロ率100%です。自分も何回ミスチルに謝ったことか!!
この物語は、そんな彼が一世一代の恋をして、イタイい目に遭遇するという、とにかくイタいイタいだらけのお話です。
さて、盛大にネタバレします。
さて、漫画では感情移入マックスだったのですが、映画ではどうだったのかといえば、感情移入マックスとまではいきませんでした。
とりあえず予告編をご覧ください。
Reference:YouTube
いかがでしょうか。主人公はいい歳こいて奥田民生に憧れ、ダラダラしたかっこよさを目指すイタい奴なんです。オシャレな雑誌の編集部にやってくるくらいだから、シュッとしてるのはわかりますが、妻夫木聡はカッコよすぎるだろ!!
出典:Yahoo!映画
ニット帽の角度と前髪のバランスがいつも完璧だし、編集部の中でも明らかに一番かっこいいし、コンプレックス持つ必要がどこにあるというのだろうか。妻夫木さんがどんだけ冴えない主人公を演じても「いやいやあんたモテてるし、人気あるし、冴えてるし、なんせ妻夫木じゃん!!」で片付けたくなる。
妻夫木さんのようなイケメンが「俺、奥田民生を好き〜」と笑顔で言えば、周りも「イエス!!」とハイタッチするに決まっているのです。
もっと白木みのるのようなコメントに困るビジュアルの方がよかったのではないでしょうか。
まぁこれは原作を知っている自分のイメージと違ったというだけで、原作を読んでなければ気にならない部分なのかもしれませんが、今更ながら、役者が持っているイメージと、役の意味とのバランスについて考えました。
面白い見え方だなぁと思ったのが松尾スズキです。
彼が演じるのはオシャレカルチャー雑誌『マレ』の編集長。部下思いの心の広い上司で、コーロキもとても信頼しています。
しかし、松尾スズキが良い上司を演じれば演じるほど、「ああきっとこの人が一番やばいわ」って展開になりそう気配がプンプンするのです。
出典:YouTube
実際、この物語にはちょっとしたサスペンス要素が盛り込まれているのですが、もう犯人が中盤から丸わかりなんです。漫画でもすぐわかるっちゃわかるのですが、映画だとそれがもう露骨なんです。松尾スズキの何もない風を装っているその姿に、何度も笑ってしまいました。犯人であることをばらしたいのか、ばらしたくないのかイマイチよくわかりませんが、これが松尾スズキじゃなく、小日向文世とかだったら割とバレずに済んだのかもしれません。でもその感じがとても面白かった。役者の持つ魅力を逆手にとった配役の妙だと思いました。いや、逆手じゃなく順手にとってますね。
「刑事コロンボ」で、大物役者を犯人にするとバレるから、最初から犯人を明かす構造にしたのは有名な話だけれど、若干それに近い。でも名言はしないという。周囲もクスクス笑っていました。