鑑賞後に改めてソングリストを確認しつつ、サウンド・トラックを聴き込んだところ、とてもフレッシュな選曲であるという印象を受けました。また同時に、いろんなことが考えられる、想像/妄想できるお得な仕様となっております。
たとえば、本作の原題は「The Edge of Seventeen 」なのですが、「Edge of Seventeen 」と聞いて、音楽好きならば誰でも思い出すであろう楽曲が、スティーヴィー・ニックスの同名曲ではないでしょうか。
Reference:YouTube
私、「原題がこれなら絶対かかるよ。最悪でもちょっと外してフリートウッド・マックかかるよ」と思ってスティーヴィー・ニックスのツアーTシャツ着て映画館行ったんですよ。終ぞ流されませんでしたけど。
それはさておき、『Edge of Seventeen』をメインの楽曲としてそのまま使っちゃってもいいと思うんですよね。スティーヴィー・ニックス自身も一時期めっちゃくちゃこじらせてましたし、ピッタリだと思います。
このセレクト、思いつかないはずがないと思うんですよ。
しかし、冒頭一発目に流れる曲は、米国歌手、サンティ・ゴールドの『Who I Thought You Were』。いかにもスティーヴィー・ニックスが流されそうなポジションにすっぽりと収まっております。
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完全に歌い方が80〜90年代の女性ロックシンガーですが、サンティゴールドは以前Stiffedという結構ゴリゴリのパンクバンドで活動していたので、ジョーン・ジェットやスティーヴィー・ニックス、ブロンディ、ノー・ダウトあたりの香りが感じられるのも納得です。
この曲がまた、女の子の成長を描く映画のOP曲として、ステレオタイプながらもピッタリハマっているんですね。
他にも、お母さんのモナ(キーラ・セジウィック)が出かけていて、家でネイディーン(ヘイリー・スタインフェルド)がクリスタ(ヘイリー・ルー・リチャードソン)と2人でやりたい放題するシーンがあります。
ネイディーンとクリスタ(出典:IMDb)
ここではThe Strutsが演奏する『Ballroom Blitz』が景気良くかかります。英国のSweetというバンドが1973年にリリースしたシングルのカヴァーですね。これ、ソフィア・コッポラなら絶対バウ・ワウ・ワウが演ったバージョンの『I want candy』あたりでも流しそうなものなんですが、その方向には走らないんです。
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これはおそらく、ネイディーンが「私は古い音楽や映画が好き」と心情を吐露するんですけど、実は本当に古い音楽には詳しくなく、自分だけが見ている、こじらせまくった世界の中だけでの「古い音楽、古い映画が好き」だからなんですね。
映画も音楽と同様で、ネイディーンがパーティーでひとりぼっちになってしまい、やっと同好の士を見つけたかと思ったら、言葉であっさりトドメを刺される印象的なシーンでは「ツインズ」が引き合いに出されます。
距離感(出典:IMDb)
この「浅さ」が本当に絶妙で、「私はフランク・ザッパとザ・スミスのブートレグばっかり集めてるし」とか、「ロジャー・コーマン作品はコンプリートしてるの」だとか言われたら、笑いはするでしょうが、ネイディーンの実在感が薄くなってしまいます。
ネタに走らずやり過ぎず、しっかりとバランスを取って、ネイディーンが聴きそう/好きそうな曲をセレクトすることにより、彼女のキャラが一層際立つ仕掛けになっています。かなり知的な作業だと思います。これ。