1月16日、第158回芥川賞の受賞作が発表された。受賞したのは2作品だ。
『百年泥』は、南インドのチェンナイ市に在住する石井氏が書いた幻想譚。対して『おらおらでひとりいぐも』は、千葉県在住の若竹氏が自在にあやつる東北弁が印象的な、文体小説。まるきり毛色の違う作品のようでありながら、この2作は互いに呼び合っているようにも思われる。
石井遊佳『百年泥』(2018)新潮社
チェンナイに住み始めたばかりの「私」が、百年に一度の洪水に遭遇したところから、このとんでもない物語はスタートする。
三日間続いた洪水の翌朝、「私」は日本語教師を勤めるIT企業へと出社する。道すがらにある橋の上は、すでに黒山の人だかりだ。洪水のせいで川底に沈んだ泥が撹拌されて、様々な人や物が浮かび上がってきたらしい。その泥、実に百年分。
「ああまったく、こんなところに!」
そう叫んで、泥の中から5歳ほどの男の子を引き揚げた女性は、舌打ちをし、少年を叱る。
「七年間もどこをほっつき歩いてたんだよ、ええ? ディナカラン! 親に心配させて!」
ぎゅっ、と丸刈り頭の男の子の耳を引っ張るとたちまち子供は泣きだし、母親に引っ張られるまま人ごみの中へ消えた。
引用:石井遊佳『百年泥』(2018)新潮社p.13
街中や車内には大量の招き猫。チェンナイ市と大阪市が友好都市提携を結び、市内の招き猫とガネーシャ(頭が象の神様)を全て交換したという。