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【直木賞受賞作】佐藤正午『月の満ち欠け』

岡田麻沙 岡田麻沙


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2017年7月19日、第157回直木三十五賞の選考委員会が築地・新喜楽で開催された。受賞作は佐藤正午の『月の満ち欠け』。デビューから34年経ったベテラン作家の受賞であること、岩波書店から刊行された作品では初の受賞であることなどから話題を呼んでいる。

佐藤正午とは?

佐藤正午は28歳の頃、『永遠の1/2』ですばる文学賞を受賞してデビューした。一人称「僕」の視点から語られる自堕落な日々の中で、不思議な出来事に見舞われ、いつの間にか思いもよらぬ事態に陥っていく・・・。

あらすじやモチーフだけ抜き出してしまえば既視感のある物語なのに、佐藤正午の作品が処女作から一貫して非凡な驚きに満ちているのは、構成の巧みさと、緻密な描写力による。分かりやすく面白いストーリーを、意外な切り口から並べなおす構成力。そして、「組み立て」に終始することなく、人間を立体的に描写する「まなざし」の深さ。ベストセラーとなった『Y』や『ジャンプ』を経て、今回の『月の満ち欠け』においてもその姿勢は貫かれ、文句なしのエンターテイメント作品でありながら人間の陰影を描き切った小説として、結実している。

 

 

『月の満ち欠け』あらすじ

主人公の小山内 堅おさない つよしは高校卒業までを故郷の青森県八戸市で過ごし、東京の私立大学に進学する。彼は大学内のサークルで親しくなったこずえと付き合い始め、交際7年目に結婚。挙式からほどなく、梢は娘の瑠璃るりを出産する。瑠璃は7歳の秋、高熱を出して1週間ほど寝込むが、大事には至らず回復する。旺盛な食欲を見せた娘の姿に小山内は安堵するが、母親である梢の表情は浮かない。瑠璃が、大人びた目つきをするようになった、7歳の娘が知るはずのないことを知っていると漏らす。小山内は梢の不安に取り合わず、むしろ自分の娘を疑うような言葉を口にし始めた彼女の精神状態に疑惑を抱く。

このまま夫婦仲に亀裂が入っていくのか? 瑠璃の奇妙な言動が深まっていくのか? と思いながらページをめくるのだが、物語の序盤で、梢と瑠璃はあっさり他界する。ここから、ストーリーはさながら月が満ちては欠けるように、時間を行きつ戻りつする中で、様々な角度から照らされる「真実」を小山内の目に映し出す・・・。

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