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【芥川賞】『百年泥』と『おらおらでひとりいぐも』は呼び合っている

岡田麻沙 岡田麻沙


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「えっちょっと待ってどういうこと」と問い返す間を与えぬテンポで繰り出されるホラ話と、本当の話。南インドの慣習と、妙に体温の低そうな作者の嘘とが混じり合って、見たこともない泥濘でいねいが生み出されている。「チェンナイにIT企業あるよねー」「インドの雇用ってラフな時あるわぁ」「甘ったるい南インドのコーヒーとバナナのフライ、あるある」みたいなあるある系の土地の描写に混じって、「将来の夢は空飛ぶエグゼクティブ」とか「目からビームを出す美青年」とか、ぶっ飛んだ話がしれっと出てくる。

こうしてあらすじを説明するとめちゃくちゃな小説のようだし、事実めちゃくちゃな小説なのだが、意外にも読みやすい。ひと息に読める幻想小説って、貴重だ。登場する要素の一つひとつは雑多だが、「私」が静かだからスルスル読める。「幻想小説ってストーリーがないから読めないんだよねー」という人にも、試してほしい一冊だ。

 

若竹千佐子『おらおらでひとりいぐも』(2018)河出書房

あいやぁ、おらのあだまこのごろ、なんぼがおがしくなってきたんでねべが
どうすっぺぇ、この先ひとりで、何如なんじょにすべがぁ
何如なじょにもかじょにもしかたながっぺぇ
てしたごとねでば、なにそれぐれ
だいじょぶだ、おめには、おらがついでっから。おめとおらは最後まで一緒だがら
あいやぁ、そういうおめは誰なのよ
決まってっぺだら。おらだば、おめだ。おめだば、おらだ
引用:若竹千佐子『おらおらでひとりいぐも』(2018)河出書房、p.1 冒頭

やや長い引用になってしまったが、本作の冒頭を紹介させていただいた。年老いた桃子さんの中で溢れかえる東北弁が、独特のリズムを紡ぎ続ける。これがたいそう癖になる。『おらおらでひとりいぐも』のような作品に出会うと、「こんなもん、紹介しようがないだろう」と頭を抱えてしまう。

こういうものについて語る難しさは、音楽について語ることの途方もなさと似ていると思う。ロジカルに説明すれば退屈になり、グルーヴを表現するとバカみたいになる。つまんないよりはバカのほうがいいので、結果、以下のような紹介に落ち着く。

この作品、ちょう気持ちいいよ。

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