「えっちょっと待ってどういうこと」と問い返す間を与えぬテンポで繰り出されるホラ話と、本当の話。南インドの慣習と、妙に体温の低そうな作者の嘘とが混じり合って、見たこともない
こうしてあらすじを説明するとめちゃくちゃな小説のようだし、事実めちゃくちゃな小説なのだが、意外にも読みやすい。ひと息に読める幻想小説って、貴重だ。登場する要素の一つひとつは雑多だが、「私」が静かだからスルスル読める。「幻想小説ってストーリーがないから読めないんだよねー」という人にも、試してほしい一冊だ。
若竹千佐子『おらおらでひとりいぐも』(2018)河出書房
あいやぁ、おらの
頭 このごろ、なんぼがおがしくなってきたんでねべが
どうすっぺぇ、この先ひとりで、何如 にすべがぁ
何如 にもかじょにもしかたながっぺぇ
てしたごとねでば、なにそれぐれ
だいじょぶだ、おめには、おらがついでっから。おめとおらは最後まで一緒だがら
あいやぁ、そういうおめは誰なのよ
決まってっぺだら。おらだば、おめだ。おめだば、おらだ
引用:若竹千佐子『おらおらでひとりいぐも』(2018)河出書房、p.1 冒頭
やや長い引用になってしまったが、本作の冒頭を紹介させていただいた。年老いた桃子さんの中で溢れかえる東北弁が、独特のリズムを紡ぎ続ける。これがたいそう癖になる。『おらおらでひとりいぐも』のような作品に出会うと、「こんなもん、紹介しようがないだろう」と頭を抱えてしまう。
こういうものについて語る難しさは、音楽について語ることの途方もなさと似ていると思う。ロジカルに説明すれば退屈になり、グルーヴを表現するとバカみたいになる。つまんないよりはバカのほうがいいので、結果、以下のような紹介に落ち着く。
この作品、ちょう気持ちいいよ。