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後味が悪すぎる小説7選

岡田麻沙 岡田麻沙


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マズいと言われると食べたくなる。押すなよと言われると押したくなるし、読むなよと言われると読みたくなる。
そんな天邪鬼の面々にお届けすべく、後味が悪すぎる作品を7冊選んでみたので参考にして欲しい。
(著者50音順)

我孫子武丸『殺戮にいたる病』(1996)講談社

『8の殺人』で鮮烈デビューを果たしたカリスマミステリー作家が描く衝撃のホラー。
東京の繁華街で次々と繰り広げられる猟奇的殺人。果てしなく続く凌辱と惨殺の果てに明かされるのは、身の気もよだつ犯行動機。
不気味なのは、残虐な行為を繰り返す殺人犯・蒲生稔が実に魅力的な描かれ方をしていることだ。彼の言葉は支離滅裂だが、非常に情緒的である。

やはり、女は困った生き物だ。そう、生きている女は。
いい女は死んだ女だけ。
どこかで聞いたようなジョークだと思いながら、稔は笑いをこらえることができなかった。
引用:『殺戮にいたる病』我孫子武丸(1996)講談社、p.103

ひどい。ひどいけれど、耳に残る語呂の良さ。作品の随所に散りばめられた「愛してる」という言葉からは、一貫して不穏な気配だけが漂って来る。そして迎える戦慄のラスト。真実を知った読者は「えええ」と叫び、1ページ目から読みなおすハメになる。読み終わると誰かに喋りたくなるという点で、感染力も高い分、実にタチの悪い一冊である。

 

カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』(2008)早川書房

2017年のノーベル文学賞を受賞し、日本国内でも時の人となっている英国作家カズオ・イシグロの代表作。著者がブッカー賞を受賞した『日の名残り』と並んで有名な小説だ。

主人公は、とある施設で介護人として働く女性、キャシー。彼女が介護をするのは「提供者」と呼ばれる人々である。キャシー自身も施設で生まれ育った。物語は、キャシーがヘールシャムの施設で過ごした日々を思い出す形で紡がれてゆく。
ヘールシャムの施設には保護官と呼ばれる人間がいて、そこで暮らす「提供者」の少年少女たちの教育をしたり、世話を焼いたりしている。保護官と提供者は互いに、優しい声音で語り合う。注意深く真実を迂回しながら。

カズオ・イシグロの文章は凪いでいる。どんなシーンでもテンポを上げない。だから、ゆっくりゆっくりと残酷な事実が掘りおこされてゆく。それはまるで、時間をかけて少しずつ皮膚を剥がされるような苦しみである。トラウマ必須の名作だ。

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