• MV_1120x330
  • MV_1120x330

後味が悪すぎる小説7選

岡田麻沙 岡田麻沙


LoadingMY CLIP

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

夏目漱石『文鳥・夢十夜』(2002)新潮社

夏目漱石の短篇集。漱石にとって転機となった『文鳥』も寂しい読後感を持つ作品だが、今回紹介したいのは『夢十夜』。不気味な短篇群である。
「こんな夢を見た。」という一文から綴られる独特のスタイルは、後に黒澤明の映画『夢』(1990)によってオマージュされている。

十夜分の夢が語られる。どの夜もおどろおどろしいのだが、特に「読まなきゃ良かった! 漱石のクソ野郎!」と叫んだのは「第三夜」と「第七夜」だ。後悔や不安や無力感が、もやもやとした状況の中にぎっちり詰め込まれている。第三夜は、例えばこんな風である。

子供は返事をしなかった。只
「御父(おとつ)さん、重いかい」と聞いた。
「重かあない」と答えると
「今に重くなるよ」と云った。
引用:夏目漱石『文鳥・夢十夜』(2002)新潮社、p.38

いやな子供! とってもいやな子供である! ここからもこの子供は不穏なことばかり口にする。そしてその台詞が、ずん・・・と心に残る。夏目漱石の意地悪さを味わうのには、うってつけの短篇だ。

 

吉田修一『パレード』(2004)幻冬舎

2002年に、第15回山本五郎賞を受賞したエンターテイメント小説。ルームシェアをして暮らす男女5名を主人公に据えて気楽な日常を綴る。そして最後に裏切られる。ライトな文体やコミカルな日々の描写と、最後に訪れるオチの温度差がすさまじい。最終章を読むまでは裏のない青春小説として存分に楽しめる作りになっているのも、読後感の悪さを加速させている。

吉田修一の描く人物はいずれも魅力的で、人間関係の奥底だけがひんやり冷たい。どんなに好ましい人間も、あるラインでは他人を切り捨てる。この、どこかで裏切られることを前提に成立している乾いた人間関係と、それでも日々は鮮やかに過ぎていくこととの対比が吉田修一作品の魅力であり、悪意と善意の配分を振り切った作品が『パレード』だ。本作も「ラストで絶叫し、すぐさま1ページ目に戻る」系の作品なので、二読目を楽しみにしながら読んでみて欲しい。

 

以上、エンタメ、ホラー、戦争文学、純文学と、どれもジャンルは違うけれども、後味の悪さでは手を取り合っている作品を紹介した。興味をひかれた小説はあっただろうか。「読むなよ! 絶対に読むなよ!」と忠言しつつプレゼントしてみるのも一興だ。

街角のクリエイティブ ロゴ


  • このエントリーをはてなブックマークに追加

TOP