• MV_1120x330
  • MV_1120x330

【カンボジア発】モチきんちゃく君か、ゴボウの牛肉巻き君か

笹本愛子 笹本愛子


LoadingMY CLIP

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

(出典:SNV

拙著を読んでくださっている方の中にも、こんな経験はないであろうか。

ラジオで流れてきた曲のタイトルが、知りたかっただけなのに。
今晩の夕飯の献立を、探していただけなのに。
あの「履いてますよ」の名前を、調べていただけなのに。

ふと気が付くと、全く違うウェブサイトを少なくとも15分は熟読していることが。
 
この通称・ネットのお散歩を、日々欠かさず行ってしまう小生であるが、そのお散歩あるあるの弊害の一つである、「キュレーションサイトシンドローム」をしばしば発症している。リンクからリンクへ夜間飛行する中、ふとまとめサイトへ足を踏み入れたが最後、そこから少なくとも10ページはそのサイト内の「まとめ」情報を読み続ける。IT革命の負の遺産、魔のアリ地獄にどハマる現象である。家族や友人と離れ暮らす日々が続く者にとって、我が愛する母国の最近を理解しておかねば、という大偽名分の元、正々堂々とこの症状に感染する。
 
キュレーションサイトシンドロームを発症する度に、その病状は全く異なってくるのであるが、ここ直近に感染した際は、本当に心から無意識のうちにこのサイトへ辿り着いていた。
〇〇系男子まとめ 60種類

私がキャッチアップできていたのは、冒頭の2種だけである。我々が、自分自身をカテゴライズすることをこよなく愛す人種であることは重々承知しているつもりであったが、そんな自分は大馬鹿野郎であった。
 
カンボジアの農業セクターのほんの一端に携わっている人間として、農家さんが手塩にかけた商品をカテゴライズし、そのカテゴリーに魅力を感じる人々を見つけ売ることの重要さ、困難さが日々身にしみる。(日本のデキるビジネスパーソンは、それをマーケティングと言うのであろう)
 

我々が関わっている農家のおっちゃんやおばちゃんが生産する野菜は、ウシさんからのプレゼントや石灰などを丁寧に混ぜて作った堆肥を用い、その年ごとの気候の変動を鑑みながら、作付けをするずっと前の土づくりから、収穫後に根・葉・茎が土に還っていくまで、箱入り娘のごとく育てられている。語弊を恐れずに言うならば、このクスリ漬けの大地が広がる国にてそのような農法を導入することは、多大なる挑戦とさらに多くの試行錯誤、そしてその何倍ものテマヒマをかけることを意味する。そして、その箱入り娘たちがいよいよ市場へと向かう時がくると、何故か、(いや理由はいくつかあるのであるが)農家のおっちゃんおばちゃんたちは、その可愛い娘に旅をさせてしまうのである。
 

手塩にかけて育てられた野菜たちは、他のどこの馬の骨かもわからない奴らと一緒くたにされ、マーケットの中に埋もれるワンオブゼムとなっていく。
 
物心つくかつかないかの頃を、思い出して欲しい。初めて「おでん」というワンダーランドに出会った時、このような想いを抱かなかったであろうか。
 
「あ〜はんぺんも玉子もめっちゃおいしー。・・・あれ、何この巾着。かわいい形してるぅ〜。食べてみよーっと。・・・ぬぅぁんじゃこるぅれうわぁぁぁ、餅が中に入ってるやんけ。もっとおでんたくさん食べたかったのに、めちゃお腹ふくれてしまいますやん・・・」
 
高校の部活帰り、おかんが作ったゴボウの牛肉巻きを見てこの感情を抱いたのも、私だけではないであろう。
 
「あ〜部活疲れた〜。今日の夕飯はがっつりとし・・・ぬぅぁんじゃこるぅれうわぁぁぁ、こんな茶色い食事うまいわけないやん。いちお肉みたいだけど。あーあ、これは食後にアイス買いに行っちゃうパターンだな。・・・あれ、これなんかおいしい。外にある牛肉は甘塩っぱくて柔らかくて、そして中にはなんとゴボウがいい出汁だして、思春期の私に食物繊維を提供してくれている・・・」
 
農家のおっちゃんおばちゃんたちが丹誠込めた野菜たちも、見た目は冴えなくても食べると身体にしみいる、「ゴボウの牛肉巻き君」系野菜へとブランディングされていくことを、切に願う。くれぐれも、見た目ピカピカ、中身はクスリ漬けな、「モチきんちゃく君」系野菜には、ならないでほしい。(そのゴボウの牛肉巻き君のプロデュースが、私の仕事です)

街角のクリエイティブ ロゴ


  • このエントリーをはてなブックマークに追加

TOP