見知らぬオバサンが敷地内で勝手に猫の飼育をはじめる
以前住んでいた家での話なんですがね、私は東京に出てきたばかりで、2階建てアパートの1階で、一人暮らしをしていたんです。
一人暮らしっていうのは楽しい。だって誰にも邪魔されませんし、他人様に迷惑をかけなければ何をやったっていい。もうこの世の春を謳歌してたわけだ。
で、この家は玄関から出ると、ちょっとした区切りのスペースがあって、そこに室外機が置かれていたんです。
「ヴーン」と唸りを上げる室外機の横には中途半端な隙間があって「なんだろなあ、何かに使えないかなあ」と思っていたものの、うまい使い方も思い浮かばず、そのままにしていたんですね。
そんなある夜、寝ていると外から動物の鳴き声が聞こえてきたんです。
「にゃーん、にゃーん」って。
「おそらく猫だろうな」そう思ってね、あの辺りは野良猫が多かったですから、また寝ようと布団を引っ被ったんです。でも、そのときふと気付いたんです。
「変だな、おい」
猫は猫だ。だって「にゃーん」って鳴いてるんだから。それは間違いないんだ。猫以外に「にゃーん」と鳴いている動物を私は知らない。だからきっと猫なんだろう。猫なんでしょうね。
でも、その鳴き声が、すごく近かったんです。
「にゃーん、にゃーん」
どう考えても玄関の前あたりで、壁一枚隔てて鳴いている感じなんですね。夜中に猫が家の目の前で鳴いている。猫っていうのは、ちょっと神秘的で霊的なイメージがありますから、もしかしたら、この世のものじゃない可能性だってある。化け猫っていう言葉もあるくらいですから。
「嫌だな、おい」
そう思ったら少し怖くなってしまって、その日は結局布団を引っ被って寝ちまったんです。まあ、怖いって言っても所詮猫の鳴き声程度ですから、そのうち眠ってしまって、気付けばもう朝だった。
「いやー、昨日のはなんだったんだろうな」
と思ってね、コンビニに行って水でも買おうと思って、サンダルを履いて外に出たんだ。
そしたら、室外機の横に猫が居たんです。
それも、綿の入ったちっちゃくて丸いソファーみたいなものに座ってるんです。