見えている「色」が全く違う
なんと、右の目と左の目で、見えている「色」が全く違っていた。まるで他人の目になってしまったみたいに!
僕の左目は、蜷川実花の写真とか岡本太郎のペインティングのように、ビカビカのバキバキな強い色の世界になっていた。濁りのないクリアな眼内レンズを通して見る世界は、南の楽園のようなトロピカルカラーの世界になっていたのだ。
そして30歳にして新しい目を手に入れるという体験に、少し興奮していた。若い人の目を盗んできて移植するとこんな感じなのかな、などと想像していた。同時に、「30年近く使ってきた水晶体は自分の人生とともに少しずつ劣化して濁ってきているのだろうな。子供の頃はクリアでシャープな発色とフォルムのエッジを感じながら生きていたのだな」という寂しさも感じていた。幼い記憶の中の色が強烈なのも、そのせいかもしれない。そもそも今見えている色と違うのだから。
その後、普通に生活していてもそんなに不自由することもないので、仕事に戻りいつもの生活がまた始まった。左右の目の見える色が違うことなんて馴れてしまうとなんでもない。仕事をこなしているうちに半年くらい経った。目の手術のこともすっかり忘れかけていたときに、ふと気づいた。