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アートディレクターとフォトグラファー【連載】広告代理店の現役アートディレクターが語る

中村征士 中村征士


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空っぽのスタジオに、ストロボがまるでジャングルのようにセッティングされて、被写体がその真ん中に立つ。「この瞬間はただ一度だけ」という緊張感の中で、フォトグラファーと被写体のセッションが始まる。しかし撮影が終われば、いっさいがっさいの機材は片付けられ、また空っぽの白い空間に戻る。二度と同じ影はつくれない。それを毎日繰り返している不思議な白い箱、それが“スタジオ”。

スタッフの熱意とフォトグラファーのクリエイティビティ次第で、最高のものも、全くダメなものも撮れる。想定していなかったことが起こることも日常茶飯事。しかし、トラブルのおかげで予想もしなかった表現の大ジャンプになることもある。そんな一発勝負の緊迫感が撮影の面白さかもしれなません。いいものが撮れたとき、僕のカラダは喜びと安堵感でずっしりと重くなっているのです。

フォトグラファーに期待していること

広告の写真を撮るときは、テーマが決められていることがほとんどです。そんな中、フォトグラファーによっては、人には言わないけれども密かに何かを企んでスタジオに入る人がいます。僕はそんなフォトグラファーに期待していることがあります。それは、決められたテーマ以上の仕上がりにするために、表現に奥行きやストーリーを加えてくれることです。自分が持っていない感性を定着してくれる、匂いみたいなものをつけてくれることを期待しているのです。みんながいいね、というものは意外とつまらなかったりしませんか。

写真は、シャッターを押せば誰でも写すことはできます。けれど、それだけではぼーっとしてしまって圧倒的に何かが足りない。そんな時、「君の名は。」の新海監督がテレビのインタビューで「(アニメの背景の)雲って何となく描いちゃうと、本当に何となーくしか描けない」と言っていたことを思い出します。全部の空の表現があれだけ印象的だったのはそういうことなのでしょう。写真も何となく撮ることはできるけれど、それだけでは人の心を動かすのが難しい。そこに欲望が定着されているかどうかが、大事だったりするのです。

写真が無限に消費されるものになってきて、これからも状況はそんなに変わらない気がします。そんな状況でも長く愛されるような生きた写真をつくりたいと思っています。

https://www.machikado-creative.jp/wordpress/wp-content/uploads/2017/01/man-person-taking-photo-photographer.jpg

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