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その絆は、呪いかもしれない。「貞子」

橋口幸生 橋口幸生


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始球式に出たり、巨大化して日本中を周遊したり。今や貞子はホラーアイコンを超えた国民的人気者になってしまいました。(後者のメガ貞子は筆者がコピーライターとして担当した仕事です)ハリウッドでもリメイクされて大ヒット。今やキティちゃんと並ぶ、日本が世界に誇るキャラクターです。

しかし、原作小説が発表されたのは28年前。現在の貞子のイメージを決定づけた映画「リング」の公開は21年前。貞子を知っていても、映画や小説は知らない若いファンも多いのではないでしょうか。

そんな貞子シリーズの最新作が公開されました。タイトルもズバリ「貞子」。映画評を書くにあたり、過去作からの流れを整理してみました。下記のタイムラインを頭に入れて、続く文章を読んでください。

タイムライン:
リング0 バースデイ → リング →らせん→貞子3D→貞子3D2



出典:imdb

黒い長髪で白装束。テレビから飛び出してきて、ビデオを見たものすべてを呪殺する。現在、貞子と聞いて誰もがイメージするあの姿が初めて映像化されたのが「リング」(1998)です。監督はJホラーの立役者のひとり、中田秀夫さん。今回、関連作をひと通り見直したのですが、やはり映画としての完成度は「リング」が突出しています。かつて竹熊健太郎さんは

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シリーズ物の娯楽映画の中にあって、「特別な作品」として突出してしまう一本がおうおうにしてあります。たとえば「007シリーズ」の『ロシアより愛を込めて』であるとか、「ルパン三世」における『カリオストロの城』のような作品です。

いずれもシリーズ物に本来内包されている「設定とキャラクターの面白さ」に加えて、スタッフや役者の才能が絶妙のタイミングで絡み合って、シリーズでも二度と再現できないような、奇跡的傑作になってしまったものです。
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と言っていました。貞子シリーズにおいては、「リング」が「特別な作品」であることは間違いありません。中田秀夫監督は本作を担当するにあたり「これで世に出なかったら、いつ世に出るんだ」と、大変な覚悟で臨んだとコメントしています。もし未見なら、すぐにこの記事から離脱して観てください。(Amazon primeやNetflixで配信中)今見ても全く色褪せていない、Jホラーの大傑作です。

「リング」と同時公開された直接的続編が「らせん」です。貞子の呪いがウィルスによって引き起こされていたという、オカルトとサスペンスが混ざりあった異色の作品になっています。飯田譲治監督が「リング」とはまったくちがうタイプの映画に仕上げました。黒い長髪&白装束の貞子は登場しません

その後、「リング」の前日譚として「リング0 バースデイ」(2000)が公開されます。怨霊になる前の貞子を熱演していたのは仲間由紀恵さん。本作がきっかけで「TRICK」に抜擢され、スターへの道を歩むことになりました。

その後、「らせん」の続編として作られたのが(そろそろ、こんがらがってきましたねw)「貞子3D」(2012)と「貞子3D2」(2013)。とはいえ14年後に作られた映画なので、ストーリーに直接のつながりはありません。ただ、「らせん」の主人公・安藤満男の息子の名前が安藤孝則で、「貞子3D」「貞子3D2」にも同じ名前のキャラクターが登場します。年齢的にも同一人物に間違いなさそうです。現時点ではこのタイムラインは、「貞子3D2」で止まっています。

タイムライン:
リング0 バースデイ → リング →らせん→貞子3D→貞子3D2

さて、話を1998年に戻します。「リング」は社会現象になるほどのヒット作になりました。当然、続編の企画が持ち上がったのですが、問題があります。原作小説におけるシリーズ完結編「ループ」は、「リング」「らせん」とは全く方向性が違う、近未来SFになっているのです。 (ウソだと思ったらあらすじをググッってみてください。僕は当時、小説を読んで大いにズッコケた記憶があります)内容的に映像化は不可能です。そこで「らせん以降を”無かったこと”にして、新しい続編をつくる」という、漫画太郎先生のような手法が取られました。こうして生まれたのが「リング2」です。

タイムライン:
リング0 バースデイ → リング →らせん→貞子3D→貞子3D2
              →リング2



出典:imdb

「リング」のような完ぺきな構築美を誇る映画ではないのですが、写真のデスマスク貞子をはじめ、要所要所でトラウマ級に怖いシーンが登場します。特に中盤、中谷美紀さん演じる高野舞が貞子の母=山村志津子を幻視するシーンは、テレビから貞子が飛び出るシーンと並ぶシリーズ屈指の恐怖描写です。

今回取り上げる「貞子」は、「リング2」の続編にあたります。

タイムライン:
リング0 バースデイ → リング →らせん→貞子3D→貞子3D2
              →リング2→貞子(今ココ!)

「貞子」が、「リング」、「リング2」と世界を共有していることが分かるのが、佐藤仁美さん演じる倉橋雅美の再登場です。「リング」で竹内結子さんと一緒に貞子に襲われた女の子と言われれば、覚えている方も多いのではないでしょうか。倉橋は呪殺こそされていないものの、精神のバランスを崩し、現在は池田エライザさん演じる主人公にストーカー行為をしています。ここでの佐藤仁美さんの演技はすばらしいです。霊とか呪い以前に、日常に潜むイヤなものに着目する中田監督の手腕が光ります。



出典:RealSound

さて、貞子といえば忘れてはいけないのが、「呪いのビデオ」を介して増殖するという基本ルールです。整理すると

1)呪いのビデオを見る

2)電話がかかってくる

3)一週間以内にビデオをダビングして、誰かに見せないと、自分が死ぬ

という流れですね。しかし、このルールが厳密に守られた作品は、シリーズ中「リング」だけです。「リング2」の貞子はビデオ無しでもテレビに写ったり、呪われた子どもが貞子同様のパワーを持ったり、途端にルールが分からなくなります。呪いのビデオの謎は「リング」で解明されたので、続編で世界観を広げるには、他にやりようがないのは事実です。でも、ルールの消滅により、以降の作品で焦点がぼやけてしまった感は否めません。

加えて、VHSビデオそのものがこれほど早く廃れてしまうことは、さすがの貞子でも予知できなかったのではないでしょうか。「リング」の呪いのビデオの怖さは、ボヤけて不明瞭な、アナログ映像が本来持っている不気味さが元になっています。今見ても怖すぎてゾワる、写真の顔が歪むショック描写もアナログならではです。

「貞子」ではYouTuberの動画に貞子がうつりこんだことによる呪いが発動します。「貞子3D」では呪いのビデオは、呪いの動画に変更されました。時代に合わせて設定のアップデートが図られています。しかし、VHSほど貞子に相性のいいものは、まだ見つかっていません。(別タイムラインの作品「貞子 vs 伽椰子」では、主人公がジャンク屋で発見したビデオプレーヤーに呪いのビデオが入っていた、という設定に戻されていました。これは白石晃士監督の大英断だったと思います)

解像度の高いデジタルの世界は、貞子にとって住みづらい場所なのです。

しかし、現代社会に貞子の居場所が無いのかというと……残念ながら、そんなことはありません。呪いビデオや、テレビから飛び出てくることは、貞子の本質ではありません。

貞子とは愛されなかった子どもの象徴であり、「母と子の物語」であることが貞子シリーズの本質です。超能力者だった貞子の母親は、世間から白い目で見られ、不遇のうちに亡くなります。母親以上の超能力を持っていた貞子は、父親の手で生きたまま井戸に落とされるという、これ以上ない悲惨な最期を遂げています。

最新作「貞子」は、貞子を「最恐の怨霊」という本来の立ち位置に引きずり戻す作品です。メガホンを取ったのは「リング」の中田監督。まさに原点回帰の一作です。



出典:eiga.com

今回、鍵となっているのが、ある「少女」。彼女も貞子同様、超能力があるため、ともさかりえさん演じる母親から虐待を受けています。



出典:eiga.com

「少女」と書いているのは劇中で彼女の名前が明らかにされないからです。虐待イコール人間性の否定であることを端的に表現した、効果的な設定だと思います。こういう場合、ヘタな監督は「私はママに虐待されていて……」と、セリフで説明させるんですよね。

今回は、彼女をはじめ、親に愛されなかった子ども達の怨念がトリガーになって貞子が召喚されます。「呪いのビデオを見ると一週間後に死ぬ」のような、明快なルールはありません。貞子と子どもたちの呪いという2つの話の軸があるため、ちょっとキレが悪いのは確かです。

しかし、今「愛されなかった子ども達」というテーマを世に問うことは、貞子の使命だと思うのです。

これまでシリーズでは繰り返し「母と子」の物語がつむがれてきました。「リング」では、原作小説では男性だった主人公をシングルマザーに改変してまで、映画を母と子の物語にしています。「リング2」や、ハリウッドでつくられた「ザ・リング」「ザ・リング2」も同じです。



出典:imdb



出典:imdb

また、貞子シリーズではないのですが、原作鈴木光司、監督中田秀夫という同じチームでつくられた「仄暗い水の底から」は、「母と子」というテーマの到達点とも言える傑作です。



出典:eiga.com

この作品も「リング」同様、シングルマザーを主人公に設定しています。映画終盤、怨霊から子どもを守るために、自分を犠牲にする母の姿は涙なくして観れません。後に中田監督はハリウッド版「ザ・リング2」で、ほとんど同じ話を撮り直しています。しかし、こちらではナオミ・ワッツ演じるお母さんが、怨霊をやっつけちゃんですよね(笑)。

「仄暗い水の底から」で母親が最後に言うのは「ママだよ…」
一方、「ザ・リング2」の母親が言うのは
「アイム・ノット・ユア・ファッ○ン・マザー!」

日米の文化の違いがあらわれていて、実におもしろいです。

やや脱線しました。母子や家族の絆は、しばしば映画で取り上げられるテーマです。多くの場合、それは無条件に肯定されるべきものであり、幸せの源泉だとされます。

しかし、本当にそうなのでしょうか?

人間関係の中で「家族」はもっともつながりが強く、完全に断ち切ることは不可能。
だからこそ「絆」だけではなく、「呪い」にもなり得るのだと思います。

テレビや新聞で子どもを巻き込んだ悲惨なニュースが報じられる。

社会がそんな状態であり続ける限りは、

VHSテープが時代遅れになろうと、

テレビがブラウン管から液晶になろうと、

貞子は僕たちのところにやってくるんです。

「貞子」では結局、「少女」の名前は明らかにされず、「少女」のままで終わります。

彼女が名前を取り戻せるかどうかは、現実世界の僕たち次第なのだと思います。



出典:eiga.com


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