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山崎貴監督について語るなら「アルキメデスの大戦」を見てからにして欲しい

みる兄さん みる兄さん


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最近、山崎貴監督の話題を目にすることが多い。

「アルキメデスの大戦」を見るまで、“大作に関わってきた監督”くらいの薄い印象しかなかったが、映画評を書くにあたり過去の作品を調べてみた。

(作品名/公開年/興行収入)
・ジュブナイル(2000年)11億←デビュー作
・Returner リターナー(2002年)12.9億
・ALWAYS 三丁目の夕日(2005年)32.3億
・ALWAYS 続・三丁目の夕日(2007年)45.6億
・BALLAD 名もなき恋のうた(2009年)18.1億
・SPACE BATTLESHIP ヤマト(2010年)41億
・friends もののけ島のナキ(2011年)14.9億
・ALWAYS 三丁目の夕日’64(2012年)34.4億
・永遠の0(2013年)87.6億
・STAND BY ME ドラえもん(2014年)83.8億
・寄生獣(2014年)20.2億
・寄生獣 完結篇(2015年)15億
・海賊とよばれた男(2016年)23.7億
・DESTINY 鎌倉ものがたり(2017年)32.1億
 _______今年公開________
・アルキメデスの大戦(2019年)
・ドラゴンクエスト ユア・ストーリー(2019年)
・ルパン三世 THE FIRST(2019年)

監督デビューから19年で17作品。「ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズは興行収入の総計が100億円を超え、日本アカデミー賞を計27本も受賞している。



出典:シネマトゥデイ

「永遠の0」、「STAND BY ME ドラえもん」は、それぞれ興行収入80億円を超える大ヒット作品。2019年は「アルキメデスの大戦」、「ドラゴンクエスト ユア・ストーリー」、「ルパン三世 THE FIRST」の3作品が公開され、2020年オリンピックのエグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクターにも就任している。全ての作品で数十億円の興行収入をコンスタントに出す「売れる監督」だ。

他の映画監督の興行収入と比較してみると、
1位:宮崎駿監督 1,191億
2位:湯山邦彦監督 870億
3位:本広克行監督 511億
4位:山崎貴監督 473億
※Wikipediaで出ている売上実績の総計なので、多少の誤差はあり

1位は宮崎駿監督。2位は湯山邦彦監督(劇場版ポケモンシリーズほぼすべての監督をやっている)。3位は本広克行監督(踊る大捜査線シリーズ)。そして、4位が山崎貴監督。上位の監督とは異なり、特定のシリーズにとらわれず、SF作品もあれば、戦争映画もアニメやハートフルドラマまで、幅広いジャンルでヒットを出し続けている。
日本屈指の「売れる監督」だ。



出典:時事通信

僕が山崎貴監督に興味を持ったのは、「アルキメデスの大戦」の1週間後に公開した、「ドラゴンクエスト ユア・ストーリー」に関するこのインタビューを見たのがきっかけだった。

『本当にこの企画が動き出すんだ』という怖さもありましたね。僕も実は4年前からオファーをいただいていたんですが、ずっとお断りしていたんです。なぜなら、ゲームは人によっては何十時間もやるメディアですから感情移入の幅が半端ない。それを映画という技法で対抗するのは難しいなと。そもそもゲームを映画化してうまくいった作品をあまりよく知らないので
出典:シネマトゥデイ



出典:映画.com

今回の映画コラムは「アルキメデスの大戦」がテーマなので、「ドラゴンクエスト ユア・ストーリー」には触れないが、このインタビューを発端にSNS上では賛否両論が繰り広げられている。

山崎貴監督の映画監督デビューは、株式会社白組(VFXを中心とした映像制作会社)内の公募企画に選ばれたのがきっかけだった。企画段階では、予算20億円の構想だったが、工面できたのが10億円だったので、自分のエゴを押し通さず予算に合わせて脚本を書き換え、「ジュブナイル」を撮った。ちなみに、この時に資金調達に協力したのが、映像制作会社ROBOTの阿部秀司氏だ。この二人のコンビはそこから20年弱続いている。

実は、ライムスターの宇多丸さんがラジオで使って有名になった「山崎メソッド」(頭に英語が付いた映画タイトル)のアイデアは山崎貴監督の発案ではなく、阿部さんが発案である。

「頭に英語が付いたタイトルは、僕ではなく、ほとんどがプロデューサーの阿部(秀司)さんのアイデア。『~三丁目の夕日』が最初だったんですけど、阿部さんの考えでは、若い観客がチケットを買う時に“三丁目”より“ALWAYS”の方が言いやすいだろう、と。その結果、作品が若い層にも届いたんです。なるほどすごい戦略だなと思いました。ただそこで味を占めて(笑)、その後“friends”とか、やたらとタイトルに英語を付けるようになって(笑)。世間ではそこに反感を覚える人もいるみたいですけど、まあその気持ちは僕も分からなくもないです(笑)。
出典:テレビガイド

山崎貴監督は映画監督を引き受けるとき、「予算が集まるか?」「お客さんに観てもらえるか?」「ヒット作になるか?」「興行成績はどうなるだろう」とマーケティング的思考から入り、市場や顧客を見る意識が強い監督だ。また、脚本、構成を考える際に、所属する白組を食わしていくと独特の表現をし、VFXをどのシーンどのくらい使うか? をまず考えているところだ。これらの表現が、映画好きから商業監督として批判を招いている。

過去のインタビューから想像するに、英語から副題が始まる作品は山崎貴監督の色が弱い作品。英語の副題が無い作品は山崎貴監督の創りたり作品。と区分けられそうである。その視点で過去の作品名を見ると、英語の副題から始まる作品は商業的な色が強いものが多い。

一方、英語の副題がつかない映画に対しては、山崎貴監督が前のめりな印象が強い。「永遠の0」の制作時には、故・黒澤明監督が発したとされる、「たまには閻魔様の前で、僕たちはこういうものを作ってきました、と言えるものを作らなきゃまずいんだよ」の言葉を引用していたし、「寄生獣」の権利が米ニューライン・シネマとの契約期間終了に伴い2013年に日本へ戻ってきた時には、山崎貴監督自ら映画化を切望していた。「アルキメデスの大戦」も同じように英語の副題がつかないので、山崎貴監督のこだわりが随所に表れている作品だった。



出典:映画.com

映画冒頭で繰り広げられる戦艦大和のシーンは、現在の邦画では最高クラスのシーンだ。当時のデータを細部にわたるまで調査し、被弾した箇所、沈没するまでの船体の傾き、海に沈むまでの時間経過を丁寧に描いていた。



出典:映画.com

物語は太平洋戦争が始まる前の昭和8年が舞台だ。当時、新造軍艦禁止期間が発令されており、その条約下では、艦齢20年以上の戦艦であれば代替として新造戦艦の建造が許可されていた。

老朽化著しい戦艦「金剛」に代わる新艦の造船候補を決める際、嶋田繁太郎海軍少将と平山忠道造船中将の大型戦艦(大和)推進派と永野修身海軍中将と山本五十六海軍少将の空母推進派の2派閥に分かれて激しい攻防を行っていた。そんな折、大型戦艦(大和)推進派に明らかな見積もり詐称の疑いがあり、その不正を暴くために、空母推進派の山本五十六が外部から数学に強い元帝大生の櫂 直(かい ただし)を海軍主計少佐に招聘し、原価計算によって見積もりの不正をひっくり返そうという話だ。



出典:映画.com

邦画では過去にあまり見ないが、洋画だとゲーム理論で有名なジョン・ナッシュの物語「ビューティフル・マインド」、第二次世界大戦時にイギリスで実在した天才数学者アラン・チューリングの物語「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」が同様に数学者をテーマとした作品だ。

劇中の見せどころで圧巻だったのが、菅田将暉が黒板に数式を書いて艦船の製作費を算出する場面である。実際の数式を映画内で見せ、その場で計算をしている。



出典:映画.com

本作品は数学監修として横浜国立大学の根上生也理事・副学長、環境情報研究院の村井基彦准教授、牛越惠理佳講師の3名が参加している。原作漫画では実際の数式は出てこないので、リアルな数式を見せて、その場で解いていくシーンは映画オリジナルの演出である。



出典:横浜国立大学

劇中で観た時、「菅田将暉は男前だな」くらいの印象だった。だが、その場にいた舘ひろしや國村隼、橋爪功など重鎮俳優たちが「あれだけの数式を書きながら長セリフを言う演技はそうできたものではない」と語ったインタビューを読み、菅田将暉の凄さを改めて感じるシーンだった。

ちょっと高校時代の自慢話をさせていただくと、僕もプチ菅田将暉状態を体験したことがある。

高校1年の夏、隣のクラスで数学の難問について男女数人が黒板の前であーでもない、こーでもないと悩んでいた。たまたま、友人に会いに教室に入った僕に対して、その友人が「この問題解ける?」と話を振ってきた。みんなが悩んでいた数式は、実は前日の授業で解いた問題だった。僕は、そのことには特に触れず、黒板でその数式を数分かけて解いていった。その場にいた男女の僕を見る目が段々と羨望のまなざしに変わっていき、数式を解き切った後には拍手が生まれた。初めて感じる、数学での成功体験だった。

それから1年くらいは、「秀才男子高校生」というブランドが校内に浸透していたのだが、本来たまたま前日に解いていただけなので、長続きせずに化けの皮ははがれていった。

数学を勉強していると、「生きていくうえで、数式を解くことに何の意味があるのか?」そんな疑問を持ち始めることがある。

足し算、引き算、掛け算くらいは日常でも使用することはあるが、大学受験で必要な微分積分と関数の勉強が仕事や生活上の意味があるか? は、誰も教えてくれなかった。

だが、「アルキメデスの大戦」では、菅田将暉が数学の力で不正を暴く場面が、数学を学ぶ意味を教えてくれた。

木村拓哉主演の「Beautiful Life」に憧れて美容師になる人が増えたり、「GOOD LUCK!!」を見て飛行機の整備士になりたい人が増えたように、「アルキメデスの大戦」を見て菅田将暉に憧れ、理系で数学を学んで計算によって社会に役立つために、会計にて原価計算を行ったり、データアナリストなどを目指す学生もいるのではないかと思う。「数学」の勉強に何の意味があるのか? と子供に聞かれた時の答えが、この映画にはあった。

この映画を観てもう一つ感じたのが、「アルキメデスの大戦」は第二次世界大戦時の日本を描写しただけでなく、当時の日本の様子から現代の日本の状況を投影して描いていたことだ。ここにこそ、山崎貴監督の本質があった。



出典:映画.com

大型戦艦(大和)推進派と空母推進派が軍事会議で議論する場面は、現代の日本企業で起こりがちな会議の様子そのままだった。

老獪な旧世代の名優たち(橋爪功/平山忠道/國村隼/舘ひろし)により、若い世代の代表となる菅田将暉が論理的な正論を説いても、世の中は正義だけでは物事は進まないことをまざまざと見せつけられる。



出典:映画.com

劇中の軍事会議を見ていて、僕はある書籍を思い出した。それは太平洋戦争の日本軍の敗戦を描いた「失敗の本質」だ。約30年前の書籍だが、いまだに数多くのビジネスマンに読まれている良書である。

「失敗の本質」は、経営戦略論で有名な野中郁二郎氏を中心に戦略論、戦術論、組織論にわたって分析した内容である。

「失敗の本質」に記載された、日本特有の組織文化の観点から太平洋戦争に敗戦した理由をまとめると、

・戦略のあいまいさ
・空気を読む関係と面子主義
・属人的な組織構造
・結果より過程重視の評価
・過去の成功事例の踏襲主義

「失敗の本質」の中で書かれていた日本の組織と戦略の問題を、「アルキメデスの大戦」では、大型戦艦(大和)推進派と空母推進派の2派閥に分かれた会議のやり取りで表現していた。ここで描かれていたテーマは現代の日本にも続く、戦略性が無く面子を重視した会議と意思決定の問題だった。

原作者の三田氏は、国立競技場の建設問題からこの作品を着想したようだが、国立競技場が2020東京オリンピックの象徴だったように、戦艦大和も太平洋戦争の象徴として、戦略的な価値や費用対効果を度外視して作られたのかもしれない。

戦艦大和沈没のの大胆なCG描写と菅田将暉の魅力で引き付けておいて、終盤の会議シーンで忖度と戦略性の無い議論で戦艦大和が製造されるまでの過程を描写し、どう考えても勝ち目のない戦いに掻き立てられてしまう、戦略性の無い日本的な組織の危険性をメッセージとして潜ませていた。



出典:映画.com

何かと賛否両論のある山崎貴監督だが、「アルキメデスの大戦」は山崎貴監督が得意な市場や顧客やクライアントニーズを捉えながら、社会性のあるメッセージを織り込むこともを両立させた良質なエンターテイメント作品だった。

今回も間違いなく2019年を代表する「売れる映画」となった「アルキメデスの大戦」をぜひ鑑賞してから、山崎監督について語らっていただければ幸いである。


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[イラスト]ダニエル

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