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「キングダム」が私たちに見せてくれる夢。

金子ゆうき 金子ゆうき


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―大人気漫画、待望の実写化! 
―日本映画の常識を覆すスケール! 
―イケメン俳優集結! 

こんな言葉を見ると「またかよ勘弁…待ってねえし…誰の常識だよ…イケメンで見にいかんだろ…」と思うようになっていませんか?僕はなっていました。「配役! 」「改悪! 」「未読はさっぱり! 」「映画は別物! 」なんて言葉が飛び交う。それでも実写化するのはなんでなんだぜ? と思っていたわけです。

「した」「いた」

過去形です。
漫画原作だからさあ、と決めつけている自分を反省しました。

ごめんなさい。
キングダム面白かった!


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出典:映画.com 不安に思った人は多かったでしょう…

そうでもない作品もありますよ。佐藤信介監督でも「BLEACH」はかなり…

おっと、時間のようです。

日本を代表するシリーズになる可能性を感じる意欲作です。見た人前提に書いていきますが、読んでから見ても楽しいと思います。

それでは、どうぞ。

2つの原作『キングダム』と『史記』

原作は『週刊ヤングジャンプ(集英社)』連載中です。2019年4月で54巻まで発売、累計発行部数は3,600万部以上。舞台は古代中国。紀元前770年から221年までの中国全土に国が入り乱れ覇権を争っていた春秋戦国時代。西の大国「秦(しん)」で戦争孤児の奴隷「信(しん)」が、後に中華統一し始皇帝となる「嬴政(えいせい)」と出会い、天下の大将軍を目指していく物語。僕も原作を読んでいます。

基本は「友情・努力・勝利」という王道ジャンプイズムを継承する熱いバトル物です。そこに「軍略」や「知略」など大人も楽しめる要素、一兵卒にも焦点が当てられる群像劇的な魅力も詰まっています。多面的な面白さは、作者・原泰久の経歴が反映されているようで『週刊ヤングジャンプ No.18』掲載のロングインタビューを読むとよくわかります。

映画少年だった原さん。大学で映像を学んだ後、映画の世界を断念しシステムエンジニアとして会社員に。入社3年目でもうひとつの夢だった漫画化を志し退職。『キングダム』が初の連載作品となりました。会社員としての経験、チームでひとつの仕事に取り組む充実感や「熱さ」が反映されているのです。映画未登場の「田永」というキャラクターは会社員時代の上司「永田さん」がモチーフとのことで、田永がいなければ信も存在していないと語っています。

『キングダム』に原案があるのはご承知の通り。司馬遷(しばせん)が前漢の武帝時代に書いた歴史書『史記』です。

『史記』は登場人物の人間像や生涯を力強く描き切っている文学的な価値も高いといわれています。キングダム主要キャラクターの多くは史記にも登場。嬴政や信はもちろん、山の王「楊端和(ようたんわ)」もそう。性別や山の民だったかは明記されていないようですが記述はある。歴史を背景にしながら群像劇としてキャラクターの魅力を掘り下げている特徴も引き継いでいるんですね。

難題に挑んだ監督とキャストたち

壮大なスケールの漫画実写化を果たしたのは佐藤信介監督。「GANTZ(2011年)」「アイアムアヒーロー(2016年)」「いぬやしき(2018年)」「BLEACH(2018年)」と漫画実写化を立て続けに手掛けています。キングダムでは、象山影視城という撮影所ふくめて中国で大がかりなロケを実施。韓国で撮影したアイアムヒーローも面白かったですし、佐藤監督は海外(アジア)で撮影すると良作になる傾向があると思います。相性がいいんでしょうか。


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出典:映画.com

主人公「信」山﨑賢人。ミスター漫画実写化。2014年から映画に限っても漫画実写化が10作! 他にいないんか…。ちゃんとを見たのは初めてでしたが、粗野でまっすぐなキャラクターがうまく出ていました。


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出典:映画.com

信と共に天下の大将軍を目指すも志なかばで倒れる「漂(ひょう)」と、秦王「嬴政」吉沢亮。メテオの子ですね。福士蒼汰主演「宇宙キター!!」でおなじみ「仮面ライダーフォーゼ(2011年)」のいわゆる2号ライダー「仮面ライダーメテオ」役でした。「ああ、メテオの子かあ」と思っていたのですが一気に飛躍してますね。朝ドラにも出ていますし。そういえば、メテオは闘い方がカンフーモチーフでした。中国に絡んだ作品で飛躍するという星の下に生まれたのかもしれません。


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出典:映画.com

信と嬴政を金目当てで助ける「河了貂(かりょうてん)」には橋本環奈。「はしかん」と略すことはこれまでもこれからも認めませんよ。ゴロツキに密告しながら生計を立てているにしては肌が綺麗すぎるカンナ!とは思いましたが、むさくるしい世界観の清涼剤としては充分。


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出典:映画.com

嬴政を助け、共に王都奪還を目指す山の民の王「楊端和」長澤まさみ。


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出典:映画.com

美しい!

…無駄に小見出しをつかってしまいました。それくらい美しいのです。わかってください。

ベストオブ長澤まさみの座は「モテキ」から揺るぎませんが、クールで力強く美しかった。こちらも肌が綺麗すぎる気はしましたが、髪のゴワゴワ感は雰囲気出ていましたね。山の民は「汚れ」があってほしいと思っていたのでとても良かった。あの髪なのにいい匂いがしそうな感じがまた…。もういいですか、そうですか。


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出典:Twitter 映画『キングダム』公式アカウント 田島光ニが担当した仮面デザインも秀逸

圧倒的な存在感を示した「王騎(おうき)」大沢たかお。15㎏増量したその姿は圧巻。腕が太い太い。


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出典:映画.com

「ンフ」をはじめ、独特すぎる口調も再現度が高かった。鑑賞中、周りから小さな笑い声が聞こえてきてたんですど、原作でも底の知れない感じが序盤の王騎の特徴なんです。見事に表現できていました。王騎が歩くシーンでは鎧の重厚感を増すために音を足したのだそう。山の民の仮面や柱もそうですが、美術や音、細かいこだわりが映画の説得力を増し魅力的にするのがよく分かります。

王族以外の血が混じった兄を忌み嫌い、反乱を起こした異母兄弟「成蟜(せいきょう)」を演じたのが本郷奏多。彼が良かった! 個人的に最も好きなキャラクターでした。佐藤監督が手掛けた「GANTZ」でも「西くん」を好演していましたが、小物感のあるイヤぁな奴をやると抜群です。なんといっても「口」。上下左右に自在にひんまがる口がゆがんだ心をあらわしているようで楽しくなりました。


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出典:映画.com

成蟜の「口」が印象的なのは、嬴政の「眼」と対照的だからというのもあります。嬴政の眼には中華統一の未来を見すえた意志が宿っている。一方の成蟜は自分が王になることだけ。「民のため」戦国時代を終わらせるという政とはまったく違う。「目は口ほどに物を言う」といいますが「目は口より物を言う」という感じでした。「眼」と「口」。血の繋がりがあってもまったく違う人間性を写しだしていました。

原作もそうですが、キングダムは2人の関係性の描き方がとてもうまい。信と漂は血は繋がっていなくとも兄弟以上に強い絆で結ばれている。「昌文君(しょうぶんくん)」との合流地点で、「成蟜と嬴政」「信と漂」の違いを信が茶化すシーンがありましたが、2つの兄弟を対比させてそれぞれを引き立たせています。

物語を貫く根幹でいえば「信と嬴政」。最下層から現場を駆け回り仲間を作りながら突き進む信。王として誰も成し遂げられなかった未来を描く政。信と嬴政のバディものともいえます。現場とトップの目線から描かれるこの構図にとてもワクワクするんですが、どこかで見たことありませんか。「踊る大捜査線」です。

脱サラして所轄の刑事になった「青島」とキャリア官僚でありながら東北大学出身という学歴から目の敵にされる「室井」。現場の青島と会議室の室井。対照的ながら警察組織を変えたいという想いを共有するようになり、互いの場所で戦っていく姿がたくさんの名シーン、名セリフを生みました。1つの事件、状況が2人のおかれた環境から描かれることで立体的に奥深くなってくるんですよね。何より僕は「踊る大捜査線」が大好きなんです。事件は戦場で起きてるんだ!! (当たり前や)


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出典:映画.com

面白くなった要因は、映画らしさの成功

中国ロケによるスケール感やキャストの実力が伴ったキャラクター再現度の高さが「キングダム」の魅力です。でも、それだけではないと思います。

「映画」にしかできないことをきっちりやっている。

それがないといわゆる「学芸会」になってしまう。漫画はペン1本であらゆる世界を表現できるし、セリフや説明書きなど文字で伝えられる。それができない映画だからこそできる表現を盛り込んで、はじめて良いものになるのだと思います。

ああいいなあ! と思った映画らしさのポイントをまとめてみました。

日中入り混じった超本格的アクション

各キャラクターの激しいアクションは見所満載ですが、何と言ってもラストの信VS元将軍・左慈(さじ)。原作では「左慈→ランカイ」の流れが「ランカイ→左慈」に。原作者・原さんも深く関わった脚本で変更された部分です。元・将軍の冷めた言葉と信の熱すぎる舌戦も見ごたえがありました。

アクションを作りあげたのは下村勇二。北村龍平監督「VERSUS(2001年)」でアクション監督デビュー。VERSUSはインディーズ映画ながら剣戟、ガンアクション、カンフー、ゾンビというB級アクションの定番が詰めこまれた作品です。僕も当時、ぶっ飛んでてよく分からないけど、とにかくカッコイイ!と思ったものです。今見てもカッコイイです。VERSUSの主演、坂口拓が今作で「左慈」を演じました。圧倒的な強者感、超スピードで剣を振る姿に度肝を抜かれました。


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出典:IMDb 刀と銃が男心をくすぐる…

PRODUCTION NOTESにはこんな一節が。

最後は王宮の広間にて、最強の敵・左慈との戦い。演じるのは本物の格闘家で戦闘術をマスターしている坂口拓。剣をよけることができるため、山﨑は本気で斬りかかりよう演出を受ける。

……剣をよけることができるため!!! 

…すごすぎます…。

左慈のアクションに目を奪われた方は「VERSUS」はもちろん、下村監督、主演坂口コンビの「RE:BORN(2016年)」もご覧になってください。アクションアクション、とにかくアクション! で必見。


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出典:映画.com 呼吸を忘れるほどアクションが続く「RE:BORN」

戦いの舞台には中国らしい要素が。刺客「ムタ」と闘った竹林は香港映画の定番シチュエーションですよね。香港映画「侠女(1971年)」が源流で、「グリーン・デスティニー(2000年)」など多くの作品でオマージュされています。


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出典:映画com 斬った竹が倒れるのも侠女のオマージュでしょう


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出典:映画.com 竹林の闘いとトリッピーな映像のラストに目を奪われる「侠女」

優れた作品からのオマージュも映画ならではといえます。

カメラワークで見せる信の成長

3,050と80,000のどちらが多いか分からない信。嬴政の語る「中華統一」が理解できるはずがありません。それでも一心不乱に敵に向かい死線をくぐる中で成長していく。2時間14分の中、カメラワークでもその成長を表しています。

嬴政がはじめて中華統一を語るのは楊端和に対して。この時、信は山の民に拘束され地べたに這いつくばっていました。カメラは信のはるか高いところに。案の定、嬴政の語るスケールはまったく理解できていません。その分「困ってるんだから助けてやってくれよ!」という馬鹿正直な言葉が響くのですが「国」の行く末について信の目線は足元にも届いていませんでした。2度目は王都を取り返した後、王騎に対して。この時の信は嬴政と王騎より数段下がったところに立っています。カメラもハイアングルで少し見下ろすように映す。楊端和の時よりは成長していますが、同じ目線には立てていないことを表現していました。彼らと同じ目線で未来を語るのはまだ先の話なのでしょう。


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出典:映画.com はるかな高みを見据える嬴政

対象の捉え方で気持ちや関係性を表現できるのも映画ならではの面白さです。

物語のスケールを広げる劇伴

ただ、この映像、セリフはありますが、音楽はないんです。映画のラッシュを観てからは信は山﨑賢人さん、政は吉沢亮さんの声が喋っているんですけれど、バックミュージックは何もない。長らく漫画をやっていますが、やはり漫画が羨ましいなと思うのはそこですね。
週刊ヤングジャンプ No.18(集英社)

原作者・原さんインタビューから引用しました。漫画と映画との決定的な違いは「音」。漫画は音をイメージさせることはできても鳴らすことはできません。僕がキングダムの「映画らしさ」で最も好きなのが音楽です。劇伴がめちゃくちゃいい。
優れた映画には優れたテーマ曲があり、主旋律として物語を支えます。今作での主旋律はサントラ1曲目に収録されている「KINGDOM」。スケール感はもちろん、中国の雄大な大地を想起させるメロディが秀逸です。「KINGDOM」の主旋律はアレンジされながら様々な場面で流れ、映画館から出ても頭から離れません。サントラ聴きながら原作を読むと一層楽しめると思います。音楽監督はやまだ豊。キングダムと同じくヤングジャンプ掲載『東京喰種トーキョーグール』のアニメ版主題歌が世界で人気になっています。楽曲からベテランのような落ち着きも感じましたが、30歳! 今後の作品が楽しみです。

夢が重なり紡がれるキングダムの未来

今作のテーマは「夢」。原作を読み直し、史記についても調べました。そこで思ったのです。キングダムの最重要ポイントは始皇帝の中華統一に「夢」という言葉を与えたことではないかと。

始皇帝が成したことは「歴史的な事実」です。それはあくまで現代からの目線。中華統一という事実を未来に置き、ひとりの青年の夢とした。大きな器は数多の人間の夢も運んでいく。そもそも原さんにとって、漫画家というもうひとつの夢を託したのがキングダムです。

『史記』も司馬遷の夢といっても過言ではないのです。司馬遷は代々歴史・天文を司る一族の生まれで父・司馬談に「自らが成し遂げられなかった歴史書を完成させてほしい」と託されました。史記の執筆を始めますが、友人の戦での敗北を擁護したことが皇帝の怒りを買い、投獄され去勢の刑を受けてしまいます。それでも自害せず史記を書き上げた。屈辱的な扱いを受けながらも先祖から託された夢に執念を燃やした末の作品なのです。

そして、映画化。アクション監督・下村さん、音楽・やまださんは佐藤監督と何作も共にした「佐藤組」。漫画実写化の集大成ともいえるキングダムは、完全にシリーズ化を視野に入れています。場面転換の演出としてワイプが多用されました。黒沢明監督が好み、スターウォーズが取り入れたことは有名ですね。1977年から続くスターウォーズの演出をつかったことに、一大サーガにするという熱い意気込みを感じました。

山﨑さんはじめ若いキャストも「キングダムを代表作に」とインタビューで語っています。主題歌は日本を飛び出し世界を視野に活動するONE OK ROCK。

「キングダム」には関わる人それぞれの夢が込められているのです。

原作ファンとしても、ここから先の熱いシーンを映画館で見たい。特に信と王騎です。信と嬴政が青島と室井であるならば、信と王騎は青島と和久さん。師弟とも親子ともとれる関係になっていきます。楽しみで仕方ありません。馬上でのシーンは泣く、絶対に泣く! 


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出典:映画.com 要潤のファルファルも見たい!

課題はあります。今作は王都奪還編でしたから戦闘自体は数十人規模でした。この先主要になるのは数万対数万、数十万対数十万の大きな合戦です。先日「アベンジャーズ/エンドゲーム」でとんでもない戦いを見ました。めちゃくちゃな規模なのにメリハリがきいて、途中途中の目的も分かりやすい。間違いなく現時点での世界最高峰でしょう。ひとつの頂点がアベンジャーズであれば、どのように合戦を描くのか。簡単ではないがキングダムをかたちにした佐藤組ならと期待が高まります。勢いだけだったキャラクターに深みを持たせられるか、若いキャストの成長も必要です。

この先への期待を書いていたら「キングダム」が僕の夢のようにもなってきました。原作ファン、映画ファンの夢ものせて世界へと羽ばたいてほしいとまで思うのは過剰でしょうか。

そんなことはありません。

2000年前以上、ひとりの青年が描いた夢の器はどれだけの人間の夢を詰め込んでも尚、あり余る大きさなのですから。


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[イラスト]ダニエル

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