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「パシフィック・リム:アップライジング」。量産化される「ひとこと言わせろ」

加藤広大 加藤広大


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参考までに、それらキメラを構成している要素を、表層的な部分のみ箇条書きにしていく。

    1. 特撮モノよりもアニメ寄りにシフトしてしまったため、動きが軽く、前作と比べて重厚な感じがしなかった。よって漢らしいロボット魂が感じられない。
    2. 前作では仄かに香っていた、怪獣映画をリスペクトしたような味付けがなされた劇伴とは異なり、ロアン・バルフェの手による楽曲群は、よりリモート・コントロール組らしい音作りがなされていた。結果、ものすっごいハリウッドっぽくてやや凡庸。
    3. 若いパイロット達のパーソナルな部分が掘り下げられず、それぞれのエピソードもほぼ皆無なため、感情移入ができない。あきらかに描写不足。
    4. イェーガーもパイロットと同じく、単体で戦うシーンが一部の機体を除いて無いので、全機集合したときの盛り上がりに欠ける。せっかく個性的なイェーガーばっかりなのに、勿体ない。
    5. ある人物の軽すぎる退場と、代打の登場。っていうか、何なんだよあのビジネスから溶接までそつなくこなせるスーパーウーマンは。髪おろしたら急に覚醒しやがって、中国市場に忖度しすぎじゃないのか。
    6. メンテナンス担当のジュールス(アドリア・アルホナ)の可愛さに反比例して出演時間が短すぎる。もっと出せ。
    7. っていうか前作が凄すぎて、こんなんダメだよね。俺が好きなパシリムじゃねえ。

 

こちらがダーティーな言葉、いわば賛否の「否」の面だとすれば、「賛」の面は

  1. 主人公のジェイク・ペントコストを演じるジョン・ボイエガの演技は、一瞬ジョン・ボイエガに見えないほどの更新を果たしており、彼が家族に抱く愛情(屈折しているかと思ったら、お父さんお姉ちゃん大好きっ子。アイスを食うシーンなんて、超象徴的)も良く表現できている。本作におけるひとつのテーマである「家族」にも繋がる重要な役割を見事にこなしている。
  2. 前作よりもイェーガーの運動性能が高い(10年後の設定なので当たり前だが)ので、格闘シーンにスピード感があり、繰り出す技や動きのバリエーションも多く迫力がある。昼間の戦闘シーンも良い。
  3. 少年少女のパイロット候補生たち、司令室爆破、量産型のドローンが乗っ取られて変形する、そのドローンが輪になって裂け目を開こうとする設定やシーンなどは、まんま某ロボットアニメであり、サービス精神がすごい。他にもオマージュが盛りだくさん。
  4. メンテナンス担当のジュールスが可愛すぎる。

これらの要素が一部なり全部なり混ざり合って、「面白かったけど、アレはちょっとなぁ」といった感想を作り出している。まるでニュートン・ガイズラー(チャーリー・デイ)のように、とは言わない。一度観ればすべて簡単に読み取れる部分なので、至極真っ当な反応である。おそらく本作について書かれた文章は、ほとんどが上記の組み合わせではないだろうか。

かく言う私も、上記を組み合わせたキメラのような感想でして

初見時の私の感想も、「面白いに決まってるでしょこんなの。でも、やりようによってはいくらでも突っ込めるよなあ」と、上のいくつかを組み合わせた感じである。

前作で一言も触れられていなかったジェイクは唐突に登場してきたにも関わらず、堂々の主役を張り、物語を支えている。これはもう脚本というよりはジョン・ボイエガの力であり、その圧倒的な存在感はさすがであるし、安心して観ていられる。

「スター・ウォーズ」シリーズ、「ザ・サークル」、「デトロイト」と、昨年から今年頭にかけて何度もジョン・ボイエガを観たが、本作はまた違った役どころで、特に前半のアウトローな感じがいい。

https://ia.media-imdb.com/images/M/MV5BZTA3ZTZhMDYtMjFjMC00N2JkLWI2MmYtZjlkOWE5YWRkYzJhXkEyXkFqcGdeQXVyNTM2NTY4NzU@._V1_.jpg出典:IMDb

また、ジェイクはスタッカー・ペントコスト(イドリス・エルバ)の息子であり、前作で描かれたスタッカーと森マコ(菊地凛子)の血の繋がっていない家族の話から、繋がっている家族へ、そして若手パイロット含めた人類皆家族へ、さらにアマーラ・ナマーニ(ケイリー・スピーニー)がやがて妹的存在(ネタバレをせずに書くならば、兄妹的存在に)に、という「血」と「家族」のラインを華麗に紡いでいく役割を果たす。

ジェイクが3人で仲睦まじく写った写真を取り出すシーンもそれらを補強する。さらに、彼は「入隊すれば父親に会える機会も増えるし、組めると思った」と、父親に対する真っ直ぐな気持ちを語る。「お父さん、愛しています」と、映画内時間で10年前にマコが伝えた言葉は、ジェイクが伝えられなかった言葉である。この美しい言葉は作品を飛び越えて、ロケットパンチのように心を打つ。

イェーガーの動きも前作以上にロボットアニメに寄せており、ぬるぬる動く。冒頭でナマーニが違法イェーガー「スクラッパー」を起動させ、廃屋をぶっ壊しながら登場し、かなりのスピードで街を逃走する一連のシークエンスは、本作の速度感を動きひとつで見事に提示すると共に、前作からの違いを一発で明示している。

と、前半は総じて良好で、とても面白い。

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