2018年1月16日、第158回直木三十五賞の選考会が開催された。受賞作は門井慶喜『銀河鉄道の父』。「銀河鉄道の夜」の作者である宮沢賢治の父、宮沢
門井慶喜『銀河鉄道の父』(2017)講談社
童話作家・宮沢賢治の名は、あまりに大きい。
「父の話」などと言いつつも、要は、「宮沢賢治の話」なのではないか。
本書を読む前、私はそんな風に勘ぐっていた。だがその予想は気持ち良く裏切られた。この小説は徹頭徹尾、「家族」の話であった。
宮沢賢治の父・政次郎は、親の代から続く質屋を経営している。持ち込まれた
宮沢賢治といえば、清貧でアルカイックな人物というイメージがある。
「クラムボンはかぷかぷ笑ったよ」とか、「どっどど どどうど どどうど どどう」とか。
新鮮なオノマトペがふんだんに使われた童話や詩は、独特の透明感を湛えている。農民の生活に寄り添った日々の描写は、清い。「雨ニモマケズ」と、あるべき生き様を語る口ぶりには、不気味なほどのストイシズムがある。だが実際の賢治の半生は、裕福な家に生まれた道楽息子のものであった。最も笑ったのは、宮沢賢治は平気でひとに金をせびるという事実だ。作中で何度も父に金の無心をしている。よそでもちょっと借りている。
もしも本作が『銀河鉄道の俺』であったならば、当たり前だけれど、全く違ったものになっていただろう。父・政次郎の現実主義的な視点で描かれたからこそ、宮沢賢治の駄目さと尊さとが、浮き彫りになっている。