マルセル・プルースト『失われた時を求めて』(2010)光文社
超長編小説の金字塔。プルーストが半生をかけて執筆した。大変に長いので、読者の時も失われるという特徴を持つ。光文社の古典新訳シリーズから刊行されたバージョンが読みやすいが、それにしたって長すぎるので、途中から読みやすさとかの問題ではなくなる。
ジョイスの『ユリシーズ』では、とにかく捻りに捻った文章表現を前に頭を掻きむしるというのが読者の定番プレイスタイルであったが、プルーストの『失われた時を求めて』はもう少し大人な味わいだ。二つの道と二つの家族に挟まれて呆然自失となるのがスタンダードなプレイである。
そもそもこの小説、語り手の「私」がすでに
紅茶に浸かったマドレーヌの味を契機に、「私」は幼少時代の記憶を現前させる。「あっ、そういえば・・・」というやつだ。この、思い出すシーンまで来るのに120ページ。なんてのんびり屋さんなのだろう。
序盤で大いにコケさせてくるプルーストだが、本編に溺れてしまえば心地良い読書体験が待っている。二つの道を行き来し、ふとした瞬間に揺らぐ「私」を介して物語を体験することは、時間からのゆるやかな解放をもたらすだろう。異世界への扉に似た小説だ。
まとめ
以上、色々な意味で熱量のある小説を4冊ご紹介した。新たな年を迎える貴重な瞬間を、超長編小説に溺れながら過ごすのも悪くない。現実の時間だけが豊かなわけではないのだから。