• MV_1120x330
  • MV_1120x330

年末年始におすすめ!超長編小説4選

岡田麻沙 岡田麻沙


LoadingMY CLIP

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

ジェイムズ・ジョイス『ユリシーズ』(2003)集英社

1904年6月16日のダブリン。ひとつの街で起きる、たった一日の出来事について、様々な人物や手法を用いて描いた、驚くほど読みづらい長編小説

どれほど読みづらいかは、そのページ配分からも明らかだ。集英社から刊行された『ユリシーズ』(全4巻)は、丸谷才一、永川玲二、高松雄一の3名によって翻訳された豪華な書だが、1巻の687ページ中、158ページが訳注である。いったいどうしてこういうことになるかと言えば、ジェイムズ・ジョイスの文章には大量のダジャレとオマージュが登場するからである。ざっくりと体感で、5行に一度は訳注に飛ばされる。1ページで10回、飛ぶ箇所もある。キレそうである。

たとえば以下は、「煙草を勧められて受け取る」ワンシーンだ。

―—《ありがとさん》、とレネハンが言って、一本とった。
引用:ジェイムズ・ジョイス『ユリシーズ』(2003)集英社、p.322

この《ありがとさん》に注がついている。飛んでみよう。

《ありがとさん》 Thanky vous 「ありがとう」の俗語にフランス語の二人称目的格をくっつけた。
引用:ジェイムズ・ジョイス『ユリシーズ』(2003)集英社、p.565

キレそうである。

他にも、ドヤ顔でしきりに繰り出される語順の入れ替えや特殊な倒置法、「え、これぐらい知ってるでしょ」と言わんばかりに挿入されるオペラの引用など、ジョイスとは絶対に仲良くなれないなと思わせる創意工夫に満ちている。気の遠くなるような苛立ちと共に読み進めるのだが、ふと、このややこしさが癖になる瞬間がやってくる。訳注をめくる時に、ワクワクしてしまっていることに気が付く。苛立ちの向こう側である。

瓶の蓋が空かないときなどに読むと効果的な奇書。

 

街角のクリエイティブ ロゴ


  • このエントリーをはてなブックマークに追加

TOP