酒見賢一『泣き虫弱虫諸葛孔明 』(2009)文藝春秋
「英雄」諸葛孔明のファンに真っ向から喧嘩を売っていくスタイルのタイトルが作品のトーンを雄弁に語っている。この小説は奇人・酒見賢一によって絶賛執筆中で、現在は第5部まで刊行されている。
資料を元に諸葛孔明の人格を分析し、新解釈を炸裂しまくる酒見節に、読者のニヤニヤは止まらない。なかでも、
劉備軍団というのは昔から尻に火が点いてから大慌てで動き出すという傾向がままあって、目前に敵軍が迫らないとなかなか本気にならない。(中略)刺激が加わってから反射的に動き出す単細胞生物のような性質を持っている。(中略)漏れのない攻撃体制の構築といった地味で肝心なことは後回しである。(中略)気分が出ないのだろう。
引用:酒見賢一『泣き虫弱虫諸葛孔明 第弐部』(2011)文藝春秋p.201-202
歯に衣着せぬにもほどがある。だがなんだろう、この、湧き上がる親近感は。
他にも、(劉表の長男である)
「この戦さは伝説を作った者の勝ちである(劉備軍団の軍事的勝利は既に絶望的だから)! 皆の者、なんでもいいからどんどん伝説を作りまくって来るのだ」引用:酒見賢一『泣き虫弱虫諸葛孔明 第弐部』(2011)文藝春秋p.440
なんですかこの、テニプリみたいなノリの三国志は。この感じが第5部までずっと続くのだからたまらない。リアルタイムで生み出される狂気を読者が全力で追いかける、稀有な長編シリーズ。