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好きな人にプレゼントしたら嫌われそうな小説5選

岡田麻沙 岡田麻沙


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大江健三郎『性的人間』(1968)新潮社

乱交しているところを子供に見られたり、妻から不倫を打ち明けられて離婚したり、痴漢行為にとりつかれた詩人が大変なことになったりする小説。こんなにメチャクチャな話なのに、やたら整った印象を受けるのは、文章が筋肉質だから。そして、思考の筋道が緻密だからだ。
前半の乱交シーンが醸すダメダメ感から、性的な行為を仔細に分解し、存在への希求を暴くまでの離れ技には脱帽する。

性的人間=政的人間、という非常にクリティカルな指摘をする問題作なのだが、いかんせん、タイトルとあらすじを説明すると必ず白い目で見られるのがたまらない

「性的人間って作品が好きで、特に後半で大活躍する、この、痴漢青年に強く共感を・・・」などと口走れば、侮蔑のまなざしが返ってくる。多分『性的人間』を読むというプレイには、ここまでが織り込み済みなのだろう。

 

パトリック・ジュースキント『香水――ある人殺しの物語――』(2003)文藝春秋

グッチャグッチャのドロッドロ
悪臭と芳香が入り混じる、愛の、そう、残念なことにこれは愛の物語である。

舞台は18世紀のパリ。下水整備されていない、悪臭漂う町並み。主人公である孤児のグルヌイユは、驚異的な嗅覚の持ち主であった。街灯ひとつないパリの夜を、香りだけを頼りに、自在に歩きまわれるほど。香水業界に躍り出た主人公は、またたくまに種々の芳香を生み出し、天才調香師として一世を風靡する。だがグルヌイユの探求心はおさまらない。究極の香りを求めるうち、ついに、処女の体臭に出会ってしまう・・・。

コントラストの強い小説である。美と醜、芳香と悪臭、聖と欲、富と貧。対極にあるものが混じり合うとき、歪に滲んだ境界線から、おぞましい本音が顔を出す。
出てくる人物は全員、どうかしている。誰もが欲望に忠実すぎる。だけどテンポがとても良いので、するするっと読めてしまう。それこそがジュースキントの罠なのだ。
「俺/私、匂いフェチなんだよね・・・」と呟きつつ本作をプレゼントすればたちどころに、孤独な聖夜を手に入れることができるだろう。

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