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「バリー・シール/アメリカをはめた男」というよりは、はめられた男

加藤広大 加藤広大


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https://www.machikado-creative.jp/wordpress/wp-content/uploads/2017/10/d420c591bdac7ad7d327f6718943657a-e1508959103753.png出典:映画「バリー・シール/アメリカをはめた男」公式サイト

ヤバいとかぶっ飛んでるという言葉が、近年最安値を更新しているとしても、「いや~別にそんなにヤバくないじゃん、アメリカ、もっとヤバい奴一杯いるでしょ。っていうかアメリカがヤバいでしょ」と少々意地の悪さが出てしまいます。そういえば「ウルフ・オブ・ウォールストリート」の日本語版ポスターのキャッチコピーも

「貯金ゼロから年収49億円 ヤバすぎる人生へ、ようこそ。」

という「ヤバい」系で、情報商材屋でも使わないような文言をカマしていましたが、外国映画を日本で宣伝する場合「ヤバい」を使わないといけないルールでもあるのでしょうか、大丈夫か日本。ボキャブラリーがヤバいぞ。

話を戻しまして、テンポのみを捉えるならば、おそらく予告編の7割くらいのBPMでしょう。しかし、この若干抑えた/抑えられてしまったテンポが、意外にも功を奏しております。

色々とありますが、丁寧に時代は描かれておりまして

ちょっとテンポが悪いような言い草になってしまいましたが、言い方を変えれば「メリハリ」が効いているということなんですね。上述した作品と比較するとやや(本当にややですが)ドキュメンタリーテイストで作られているように感じます。

なので、「今何をやっているのか」、「なぜこうなったのか」が丁寧に説明されており、その合間に派手な、いわゆる「ヤバい」シーンが差し込まれていきます。バリー・シール個人の転換点、時代の転換点ごとにしっかりと句読点が打たれます。

たとえば、中米のニカラグアのサンディニスタ民族解放戦線と戦うために、アメリカ政府は自分の手を汚さずに地元の人たち(コントラ)を反政府ゲリラとして教育して、武器やら資材やらを支援します。けれど、アメリカ産の武器だと不味いからAK-47なんかを揃えて、これをバリーが運ぶんですね。

https://www.machikado-creative.jp/wordpress/wp-content/uploads/2017/10/998d3bbbdad193e7f09d87732ea4a296-e1508959317402.jpg出典:IMDb

バリーは銃器を横流しして、帰りにはコカインを積んでアメリカに密輸するんですけど、サンディニスタ民族解放戦線とか、コントラとか、イラン・コントラ事件とか、ノリエガ、東西冷戦などなど、世界史が苦手だった人には頭の痛くなるキーワードが頻出します。よしんば知っていても、時系列順かつ的確に当時の中米のあれこれを説明できる人はまれでしょう。とにかく「ややこしい」地域であり、時代背景なんですね。

そのためなのか、本作はテンポをなるべく落とさずに注意しながらも丁寧に説明することにより、キーワードをよく知らなくとも「なるほど、この辺りにはこういう奴がいて、バリーはこういう物を運んでたんだな」とすらすら読み取れる工夫がなされています。これはメリハリを効かせて、派手なシーンを強調するのにも一役買っています。

とは言え、もちろん前知識があれば更に楽しめる映画です。ネットを流し読みしてみたり、関連作品を観てみたりすることで、より事態が飲み込めます。とまれ、前知識がなくとも、「玩具のようにバッカンバッカン出て来る札束。そのまま持って逃げりゃ一生遊んで暮らせるほどのコカイン。主人公、CIA職員、アメリカ政府、カルテルの錯綜する思惑」と、どう転んでも面白くならざるを得ない要素がしっかり入っておりますので、ポップコーン片手に観るには最適な映画でしょう。「現代アメリカへの警鐘である」などと野暮なことは申しません。だってもう皆知ってるでしょ。あの人たちのやり口は。

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