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「ポルト」評「パターソン」と併せて観るべき、異国の夜の一幕寓話

加藤広大 加藤広大


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パターソンと併せて観るべき、異国の夜の一幕寓話

繰り返しになりますが、「ポルト」は、大筋だけを捉えるならば「どこにでもあるような男女の一夜の物語」です。だからと言って「ありがちな話だからつまらない」という結論にはなりません。第一にゲイブ・クリンガーの手腕もありますが、何より私たちが移入できるという強みがあります。

映画評で自分が移入した話はあまり書きたくありませんが、例えばある夜、女の子と知り合って良い感じになって、彼女の家に行く前に人気のない夜道を寄り添って散歩したときのアスファルトの匂い、家でセックスした後にカーテンの間から差し込む青みを帯びた光、翌朝彼女が鍵を預けて先に出て、知らない家に一人っきりになったときの静けさ、枕に残る彼女の匂い、どれもなぜか時折思い出してしまうあの夜の記憶です。一夜だけの関係を経験したことがあるなら誰しも覚えがある感覚ではないでしょうか。

https://www.machikado-creative.jp/wordpress/wp-content/uploads/2017/10/76f2cf2f22c73d41eb5cb23683d338fd-e1507750988660.png出典:Youtube

その記憶の再生装置は当時流れていた音楽であったり、飲んだ酒であったり、通った道であったり「ポルト」であったりするのです。時間や思い出は一方向からやって来るわけではなく、曲がり角で待ち構えていたり、振り返ったらすぐ後ろに居たります。

本作は映画好きの方にしか引っかからないような小品ですが、決してシネフィル対応ではなく、若い時にちょっぴりオイタしたことがある、そして時折当時のことを思い出してしまう。そんな人にこそ響く作品だと思います。

ゲイブ・クリンガーは、ジェームズ・ベニングの言葉を引用して

「時間なんてものは、ただの思い出にすぎない。これぞまさにポルトが言わんとしていることです」

と語っています。

私はこれに、というかジェイクとマティに、そして「ポルト」に、忘れられない「あの夜」の記憶を持っているすべての人に、もう一つの言葉を付け加えたい。

「時が経てば、どんな思い出にも聖者が宿るってもんだぜ」

トム・ウェイツが歌う『Time』の一節です。

Reference:YouTube

最後に、本作の製作総指揮であるジム・ジャームッシュは最新作「パターソン」で、何も起こらない、何も起こさない「パターソン」の1週間を見事に描き切りました。その平坦に続いていく日常と対極に位置するのが、一夜に執着し記憶を巡る「ポルト」です。あくまで私の見立てですが、ゲイブ・クリンガーはジム・ジャームッシュに影響を受けていますが、それ以上にジムはゲイブに影響を受けている筈です。

何ら代わり映えのしない日常も、打ち上げ花火のような日も同じ人生のうちの1日であり、例えばパターソンがバーで女の子と惹かれ合ってしまったら一夜限りの「ポルト」になり、ジェイクがカフェでマティと出会わなかったならば変わらぬ日常が続く「パターソン」になる。奇しくも両作品は男女がベッドで向き合って寝ているシーンからはじまります。

この辺りを見比べるのも面白い。出生地も年もまったく違う映画作家2人が出会い、惹かれ合い共鳴し合う。まるで「ポルト」のようではありませんか。機会があればぜひ、ニコイチで鑑賞することをおすすめします。

とまれ、単品で鑑賞してもまったく問題ございません。「ポルト」、色々と考えさせてくれる作品でした。

次回は「バリー・シール/アメリカをはめた男」です。

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