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「ポルト」評「パターソン」と併せて観るべき、異国の夜の一幕寓話

加藤広大 加藤広大


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「ポルト」という場所

タイトルにもなっている「ポルト」とは、ポルトガル北部に位置する都市名で、リスボンに次ぐ第二の都市です。そして現役最高齢であった映画監督、マノエル・ド・オリヴェイラの出身地であり、18世紀から19世紀にかけて、ポルト港からイングランドに向けて輸出されたワインは、その地名にちなんでポートワインと呼ばれるようになりました。

https://www.machikado-creative.jp/wordpress/wp-content/uploads/2017/10/1280px-View_over_Rio_Douro_at_Porto-e1507750544346.jpg出典:Wikipedia

ところで、日本でいちばん有名なポートワインは「赤玉ポートワイン」だと思いますが、これはポルトとはまったく関係なく、スペイン産ワインをベースに開発された商品です。そんな赤玉ポートワインもなんと今年で生誕110週年、マノエル・ド・オリヴェイラの1つ先輩です。

赤玉はさておき、同じポルトガルの映画で「ポルトガル、ここに誕生す~ギマランイス歴史地区」というアキ・カウリスマキ、ペドロ・コスタ、ビクトル・エリセ、マノエル・ド・オリヴェイラの4人が監督を務めた短編集があるのですが、こちらも本当に素晴らしい作品ですので、機会があればぜひどうぞ。偶然にも制作者のロドリゴ・アレイアスはゲイブ・クリンガーの友人であり、撮影場所としてポルトを勧めたのも彼だそうです。

港湾都市としてローマ時代から栄えていたということもあり、歴史的な街並みも美しく、劇中でも随所に挿入される絵葉書のような街の風景を観るだけでも、本作を鑑賞する価値があります。

「ポルト」が持つ不思議な魅力

どこにでもありそうな話でありながら、不思議な魅力と斬新さすらある本作ですが、その理由は一体どんなものなのでしょうか。

本作はスーパー8、16ミリ、35ミリを用いて撮影されており、シーンによってアスペクト比が変わります。頻繁に変わるのですが決して不自然ではなく、むしろ時間を視覚化するのに効果をあげています。そして「ポルト」にとって、時間は大きなテーマです。

次に(1)ジェイク(2)マティ(3)マティとジェイク、の3つの視点から描かれる物語であるということ。ありがちな手法ですが、例えば「羅生門」のように誰かが嘘をついていたり、言っていることが食い違ったりはせず、互いの微妙な記憶の違いのみが描かれているという点が興味深い。

https://www.machikado-creative.jp/wordpress/wp-content/uploads/2017/10/1295099fa59f9061b64b23163153e0e1-e1507750655642.png出典:Youtube

ジェイクとマティが別々で思い出す記憶は似ているけれども決して同一ではない。ジェイクは覚えていても、マティは覚えていないこともある。逆も然りで片方は鮮明に覚えていても、もう片方は忘れかけている。フィルムの違いによる質感は、ここでも効果を発揮しています。

この「記憶」を巡る仕掛けが素晴らしく、観客は今観ているシーンが、現実時間で起こっているのか、ジェイクやマティの頭のなかで思い出されているものなのか、過去の出来事なのか、未来の出来事なのか、わざと混乱させるようなつくりになっています。結果として少々冗長になってしまっていたのは惜しいですが、独特の浮遊/空気感を表現することに成功しています。

そして、何と言っても、本作の尺が76分であるということ。これがどれくらい短いか「フィフス・エレメント」で例えてみますと、頭がイカみたいな青い宇宙人が歌のスタンバイすらしていない時間帯です。これは短い。ゲイリー・オールドマンの出番がありません。

https://www.machikado-creative.jp/wordpress/wp-content/uploads/2017/10/0f2e046839c12ff3a0005c63fc27c109-e1507750846547.jpg出典:IMDb

ちなみに今年公開された映画のなかで、私が観た一番長いものは「ありがとう、トニ・エルドマン」の2時間42分、次点が「沈黙 -サイレンス-」で2時間41分ですから、半分以下の尺です。

しかし、短いからといってあっさりしているかと言えばそうではなく、濃厚なんですね。

そうそう、濃厚と言えば、尺の長さに対して濡れ場が長い長い。これに関しては私、ちょっと文句言いたいです。いくらワンナイトラブで気分が盛り上がっているとしても、セックス→ピロートーク→セックス→ピロートーク的な流れは反復し過ぎですし、ピロートークもピロートークで何だか哲学的な話だったり凄く示唆的な発言だったりをするんですけど「いや、お前ピロートーク中じゃん」と笑いを堪えきれませんでした。ここはもう少し圧縮できたのではと思います。

と、気になるところは少々あれども、全体的に観ればとても詩的であり、ロマンティックであり、さながら異国の地で繰り広げられる一幕寓話と言った雰囲気は、例え海千山千のベテラン監督といえども、おいそれと出せるものではないでしょう。

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