物語は、家庭用のビデオカメラで撮影したような、どこか懐かしげな母子の映像からはじまります。その後ろでは、マックス・リヒターの『On the Nature of Daylight』が静かに流れます。
Reference:YouTube
民族音楽のように繰り返されるミニマルなフレーズは、一体何を意味しているのか。画面いっぱいに映し出された、湖畔に面した窓は、一体何を示しているのか。「これはあなたの人生の物語です」と語られる、「あなた」とは誰なのか。初っ端から数々の記号が散りばめられます。
言語学者のルイーズ・バンクス(エイミー・アダムス)は、薄暗い教室での講義の最中に、何やら不穏な出来事が起きていることを知ります。
ルイーズ・バンクス(出典:IMDb)
外では戦闘機が轟音を響かせながら灰色の空を飛び、ラジオやテレビのニュースはさきほど世界中に出現したらしい12隻の未確認飛行物体の情報をしきりに伝えています。
この物体はなぜ、突如出現したのか? 目的は? そもそも一体何なのか? 何一つ分からない現状に、各国お手上げの状況です。
そんななか、米軍からの要請により、ルイーズは理論物理学者のイアン・ドネリー(ジェレミー・レナー)とともに、未確認飛行物体のなかに居た2体のエイリアン「ヘプタポッド」の言葉を翻訳する任務を課せられることとなります。
と、いかにもドゥニ・ヴィルヌーヴらしいタイム感と色使いではじまる物語は、撮影監督であるブラッドフォード・ヤングの仕事も相まって、非常にゆっくりと、堂々とした重々しいトーン・アンド・マナーで、静かに、美しく駆動していきます。
そしてついに、正体不明の宇宙船の異型が、贅沢なヘリコプターショットで明らかになります。焦らすだけ焦らしてドカンと出す。ドゥニ・ヴィルヌーヴは、おそらく今、世界で最もプレッシャーがかかっている監督でしょうが、そんなことは微塵も感じさせない余裕すら感じる演出です。
宇宙船の全容(出典:IMDb)
さて、ルイーズら調査チームはヘプタポッドとのコミュニケーションを図ろうと、不気味な宇宙船の内部へと進んでいきます。
この静かな、抑えた感じが本当に素晴らしい。何もない空間に白く不気味に光る、壁とも膜とも分からない境界。その空間はまさに「聖堂」とも言えるほどの
宇宙船内部(出典:IMDb)
また、この部屋でオレンジ色のハズマットスーツが映える映える。異物のなかに入った人間のほうが、実は宇宙人にとっての異物であり、壁の向こうとこちら側で、それぞれの立場を指し示す、なんとも象徴的で美しいシーンです。
そして、ついにヘプタポッドとのファースト・コンタクト・・・・・・なのですが、彼らは奇っ怪な図体から不気味な音を発するのみで、何を言っているのかまったく分かりません。