ヘッドセットを外された瞬間、「戻ってきてしまった」と思った。意味のある世界から、意味のない世界へ。敵を倒すという使命を与えられた自分から、特に目的とかもなく存在している自分へと。「お疲れ様でした」と声をかけてくれたスタッフのお兄さんは、神様ではなく、爽やかな一人の青年に戻っていた。
それでも、「さあ、大丈夫です。もう少し前に出てみましょう」と言われたあの体験は、生々しい記憶としてわたしの中に残っている。ペーパーナイフにまで堕しておいてこう言うのもなんであるが、VR体験はやはり、とても実存的だと思う。「何者か」であることは楽しい。「敵を倒せ」という使命を与えらえた数分間は、とても楽しかった。そしてその楽しみが唐突に終わることへのうろたえと焦り。居心地を悪くさせる、輪郭のブレる感じ。これらをひっくるめて飲み込んで、ヘッドセットを外したわたしは、次の「何者か」に向かって飛び込んでゆく。VRは、実存的である。