電話にでない女
ポンポンポポンポポンポンッ♪(ブーッブーッ)
ポンポンポポンポポンポンッ♪(ブーッブーッ)
サイゼリヤにいたときに、ずーっと隣で着信音が鳴っているにもかかわらず、電話を取らない女がいた。
何度も繰り返されている間じゅう、彼女はピクリともせずにそのスマホを見つめていた。
異常なのはそれだけでなく、不思議なことに彼女の前にはコップがに5つも並んでいることだった。カルピスソーダのチョロ残し、ペプシコーラのチョロ残し、何かを飲んだ空のコップが2つ。そして、今飲んでいるメロンソーダのコップ。
ドリンクバーを頼むことはわたしも多々あるが、そんな贅沢にコップを使ったことはない。やっぱり店員に「あれ、この人、1人だと思っていたけど誰か友達がきていて、1回のドリンクバー注文で5人分飲んだんじゃないの?」とか思われるのが嫌だから、できるだけコップの数は少なめにする。
それが一人でいるのにコップが5つ。贅沢だ。そんなことをするような顔には見えないのに。
実際、彼女はさっき「あの、」と店員を呼び止めようとしてスルーされていた。彼女はパスタを食べているから「あの、」の先は、多分、チーズを頼もうとしたんだと思う。一度呼び止めようとして失敗した女性は、すぐに諦めてパスタを食べ始めた。そういう控えめな性格なのに、コップが5つもあるのはおかしい。
きっと、彼女の事情はこうだ。
まずこの人の名前は、きっとユウコだ。彼女は同棲している彼氏と喧嘩をして、ここにきた。 言い争いになってそのまま家を出てきてしまったのだ。そうに違いない。そして駅付近まで10分程度歩き、小腹が空いたことに気づいて今この席についている。 席についてメニューを開いた途端おなかがギュ〜っとなって、「やだ、人間って、怒っていてもお腹は減るのね」とか自分で呆れて見せたりしたと思う。
喧嘩をした理由は些細なものだったはずだ。